国家錬金術師の資格取得試験は毎年十月に実施される。
三日間に渡って行われるその内容は、筆記試験、精神鑑定、実技試験の三種類だ。

そして最終日である今日、大総統府内の実技試験場には十数名の錬金術師達が集まっている。
やはり緊張からであろうか声を出すものは一人としていなかったが、試験開始時刻になり会場のドアが開かれると、少なからずどよめきが起こった。だがそれは入ってきた数名の試験官に対する反応ではない。その背後からひょっこりと顔を出した眼帯の男、軍事最高責任者キング・ブラッドレイに対してであった。

「ああ、そう緊張しなくて良い」

ブラッドレイはにこにこと笑顔で片手を挙げたが、その言葉はこの場合ほぼ無意味だろう。彼をよく知るものならば”わかってやっている”と思う所だ。ざわめきは治まったが、代わりに一種の威圧感が会場の空気に混じる。

何故よりにもよってブラッドレイが試験を見学にくるんだと、口には出さず誰もが思っていたが、その中で唯一人、一際その年若さが目を引くだけは、先ほどから眉一つ動かすことなく佇んでいた。無論とてブラッドレイの威圧感を感じていないわけではなかったが、極限まで高められた己の精神が、今この時だけは波紋を生むことを許さなかったのだ。










第6話 光耀の錬金術師










「これより実技試験を開始する」

試験官の一人がそう告げると、会場の空気がまた一段、ピンと張り詰めた。

試験の方法はとても単純なものだ。
これといった形式や制限時間などは無く、ただ自分の好きなものを好きなように錬成する。その過程全てが判定対象となるため、方法や錬成物は術師によって全く異なった。

ある者は種子から花を咲かせ、ある者は金属片から見事な細工の長剣を造りだし、またある者はその場でキメラを錬成して見せた。
錬金術をよく知らないものから見れば驚愕の連続であろうが、もちろんブラッドレイを含めた試験官達が歓声をあげることはなく、彼らはただ黙って手元のファイルに何かを書き込んでいく。見定めているのだろう、軍にとって有益な能力を持つ狗がこの中に混じっているのかを。


「次、前へ」

「はい」

淡々と続けられる試験を見つめているうちに、ようやく名前を呼ばれは返事とともに会場の中央へ歩み出た。そして軽く周囲を一瞥すると正面に立つ試験官に向かって声を発する。

「錬成を始める前に一つお願いがあります。銃器および金属類をお持ちの方は、なるべく離れていただけないでしょうか?」

「どういうことだね?」

厳つい面立ちの試験官は、訝って眉間に深いしわを寄せる。

「いえ、ただ実技試験中に死傷者を出すわけにはいきませんので」

するとはさらりとそう言ってのけた。その言葉に面食らった試験官は、苦い表情で他の四人の試験官に目配せして後方へ下がらせる。

「大総統閣下」

面白そうに目を細めてその光景を見ていたブラッドレイに、試験官から声がかかる。

「うむ」

試験会場の中央に立つ少女のような錬金術師が、これからどんな錬成をしようとしているのかはわからないが、常に腰にサーベルをさしているブラッドレイも危険であることには変わりない。彼は一つうなずくと、数歩後ろへ下がった。


「では・・・」

自分の周囲に誰もいなくなったことを確認してからは一礼すると、静かに胸元に両の手を当てた。

伏せられた瞳の奥に明確な錬成のイメージが描かれると、胸元から淡い光が溢れ出す。
イメージを途切れさせないため、そのことを感覚だけで捉えながら、はゆっくりと両の手をひらいていく。それとほぼ同時に、付近の温度が急激に下がりだした。

肌を刺す冷気に、は半ばまでひらきかけた手を止めようやく目を開いた。そしてまるで印を刻むかのようにくるりと返した両の掌を、一息に左右へと突き出す。

刹那、凍てついた大気が悲鳴をあげた。
を中心に天から五本の青い閃光が走る。直後、轟音が鳴り、眩い光がの姿をかき消した。




それまで黙って事の成り行きを見守っていた試験官達も、これには度肝を抜かれ、そのうち一人が思わずに駆け寄ろうとする。

「待て」

ブラッドレイはそれを片腕で制すると、衝撃波に軍服の裾をなびかせながら光源へと目をやった。

「死んではおらん」

試験官は足を止めたものの、信じられないとばかりにブラッドレイの視線の先を見据える。すると、そこには確かに光の中に佇む人影があった。

光の柱が消えていくと、徐々にが姿を現す。
彼女は錬成を始めたときと全く同じ場所に立っていた。華のように舞い散るダイヤモンドダストの氷片と、なびく自身の金糸が、閃光の余韻に淡く輝いている。

錬成もさることながら、術師である自身までもが、なにか不可侵の存在でもあるかのように、その幻想的な光景を前に誰もが言葉を失った。

に言われて後ろへ下がった試験官たちは、今更ながらにその理由を知ったことだろう。
中央の国家錬金術師統括局に所属する彼らは皆、軍人である。例外なく携帯している銃には当然弾が装填されており、その中身は火薬だ。もしの放った雷撃に触れればどうなるかは想像に難くない。金属が雷をよく通すのは、子供でも知っている。サーベルやナイフなどを持っていれば、それこ感電死は免れない。

肉体的な力などほとんど無いような華奢な娘が、その気になればただそのか細い腕を少し動かすだけで、幾多の戦場を生き抜いてきた軍人である自分達を、一瞬で殺す事ができるのだと気づいて、試験官たちは本能的な恐怖にその表情をゆがめた。使役し、統括する立場でありながらも、彼らは正しく理解していなかったのだ、国家錬金術師がなにゆえ”人間兵器”などと呼称されるのかを。




「以上です」

異様な沈黙を破ったのは、再び一礼したの声だった。

「っ・・・次っ!!」

顔を上げたと目が合った試験官は、その碧の双眸に射抜かれたような気がして慌てて声を発する。



その後、残りの錬金術師達の実技試験も滞りなく終わり、試験は終了した。
だがブラッドレイがそれを見ることは無かった。彼の視線は、その間ずっとただ一人に注がれていたのだった。












数日後、は中央司令部内にある国家錬金術師統括局の一室にいた。
会議机には変わることの無い五人の試験官の姿がある。そのうちの一人が立ち上がると、手に持った書類を読み上げた。

「大総統キング・ブラッドレイの名において、汝に銘”光耀”を授ける」

「光耀・・・・・」

「”光耀の錬金術師”それが君の二つ名というわけだ」

が思わず口に出すと、試験官は書類を封筒の中に入れながら言った。

「さて、先ほど説明した規約は拝命証と共にこの中に入っている。これが国家錬金術師の証の銀時計だが・・・」

試験官は隣に座った男から銀時計の入った箱を受け取ると、封筒と共に机の上に置いた。


、君はこの資格を受理するかね?」

あくまで形式にのっとった手順だが、は僅かに目を伏せた。無論、迷いなどあるはずも無い。

「謹んで承ります」

が優雅に一礼すると、試験官は封筒と箱を手にとってに差し出した。

「おめでとう、今期受験者の中ではトップの成績だ。今後の活躍に期待している」

「一つ・・・・お聞きしたいことがあります」

受け取った封筒と箱をしっかりと胸元に抱えて、は口を開いた。

「何だね?」

「私の成績は、一般資格取得者規約における一定基準以上に相当するものですか?」

その言葉に、五人の試験官は顔を見合わせ、一斉にざわめいた。

「・・・・一定どころか遥かに凌駕していると言ってもいい。では例の制度の適用を希望するのかね?」

まさかの口からその質問が出るとは、思いもしなかったのだろう。試験官達の驚愕と困惑の視線が、に集まった。

「はい」

だが、は間をおかず強く頷くと、宣言するかのように声を発した。


「私は特務少佐に志願いたします」





to be continued





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