カランカラン、と数時間前にロイがそうしたようにはタッカーの屋敷の呼び鈴を鳴らした。ほどなくして開かれた扉からタッカーが顔を出す。

「はい」

「失礼いたします、マスタング大佐の命でエルリック兄弟を迎えにあがりました」

玄関前に立つ来訪者にタッカーは目を瞬かせた。

「おや・・・もしかしてあなたが・・・・」

少女のような年若い女性士官に一人の名前が浮かび上がる。

「申し遅れました。お初にお目にかかります、私は光耀の錬金術師少佐。高名な綴命の錬金術師にお会いできて光栄です、ショウ・タッカー殿」

そう言ってにこりと笑うに思わずタッカーも表情を緩ませる。

「いやいや、高名だなんて恐縮ですよ。やはりそうでしたか、噂には聞き及んでいましたが・・・いやお若い」

「若輩者です」

謙遜ともつかないタッカーの言葉に、は苦笑を返す。

「ああ、どうぞ中へ入ってください、エルリック兄弟なら奥の資料室ですよ」

「ありがとうございます」










第5話 ある日の面影










「エドワード君、迎えにき・・・・・」

タッカーに案内されて資料室まで行ってみればそこには思いもよらない光景が広がっていた。

「・・・何してるの・・・・?」

てっきり夢中で資料を読みふけっているとばかり思っていたエドワードは、大型犬アレキサンダーに押しつぶされて床に突っ伏していた。その横ではニーナが楽しそうに笑っている。

少佐!?・・・いやこれは資料探索の合間の息抜きというかなんと言うか!」

「で、いい資料は見つかったかい?」

「・・・・・・・」

慌ててがばっと立ち上がるエドワードだが、タッカーのさりげない一言に固まってしまう。そして絶妙なタイミングでアレキサンダーの前足が彼の頭に乗せられた。

「・・・・・・また明日来るといいよ」

そんなエドワードを不憫に思ってタッカーはなんともいえない笑顔を向けた。

「わぁ!綺麗なお姉ちゃん!」

ーと、資料室の入り口に立っていたに気づいたニーナがその足元に抱きついた。そしてにこにこと彼女を見上げる。

「お姉ちゃんも遊びに来てくれたの?」

「こら、ニーナ駄目だよ!」

娘の予想外の行動に慌てるタッカー。

「構いませんよタッカーさん」

はニーナの視線にあわせるようにしゃがみこむとにっこりと微笑んだ。

「こんにちはニーナ、私は

「こんにちはお姉ちゃん!」

「そう、よくできました」

「えへへ!」

子供特有の無邪気な笑顔を向けられてはニーナの頭を撫でた。

お姉ちゃんの目、珍しい色だね!とっても綺麗な碧色」

「ああ・・・これのこと?」

そう言っては自分の瞳を指差した。

「それは私も思っていたんですが、その瞳と髪の色・・・・もしかして貴方は北部の?」

「ええまあ・・・・」

ニーナに便乗したタッカーには視線を向ける。

「私は北部の生まれですから・・・特殊な気候の影響であそこで生まれた人間は、大抵髪と瞳の色素が薄くなるんです」

「ほお・・・それはまた興味深い」

「ただの突然変異らしいですけどね・・・・」

ニーナ髪を撫でていると彼女はくすぐったそうに笑う。

「さて・・・あまり長居をするわけにもいきませんね」

そう言ってが立ち上がると、意味を理解したエドワードがニーナに別れを告げる。

「お兄ちゃんたちまた来てくれるの?」

「うんまた明日遊ぼうね」

アルフォンスがその大きな鎧の体を傾けてニーナに手を振る。

お姉ちゃんもまた来てね!」

「ニーナ無理言っちゃ駄目だよこの人は・・・・」

「え・・・っと・・・・」

期待に満ち溢れた大きな瞳が真っ直ぐにを見つめてくる。たまたま今日迎えにきたのが自分だったというだけには困惑した。すぐに返答が返ってこないのでニーナが少々不安そうな顔をする。その表情に思わず折れてしまった。

(また私が迎えにくればいいか・・・・)

「・・・・うん・・・必ずまた来るね」

「本当?」

「うん約束」

「約束だよ!」

ようやく返ってきた返事にニーナは満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、行こうかエドワード君、アルフォンス君」

「ああ」


「あ・・・いけない忘れる所でした、タッカーさん」

エドワード達と玄関から出ようとしたところでふとは思い出した。

「はい?」

「大佐から伝言を預かっていました。”もうすぐ査定の日です、お忘れなく”と」

何気なく言ったその一言にタッカーの表情が曇った。

「・・・・・・ええ、わかっております」

「確かにお伝えしました、では」

軽く会釈をして背を向けるとタッカーも同じようにして静かに玄関の扉を閉めた。







「まさか少佐が迎えに来るとは思わなかったなー」

「すみません、わざわざ・・・・」

「気にしないで。こうやって君たちと話す時間もできたことだし」

今エドワードとアルフォンスはの運転する車の後部座席に座っている。

「それに・・・」

両手でハンドルを握りながらは付け足す。

「昼間のお詫びもかねて・・・・かな」

苦笑した彼女の様子に思い当たることは一つだけで、またもエドワードは赤面することになった。

「・・・・そ・・・・それはもういいってば!!・・ところでさ・・・・」

「何?」

「少佐はなんで国家資格をとっ・・・・ってぅわっ!?」

エドワードが言いかけたとたん突然車が急停止した。

「さっき・・・・・」

「え?」

車を停止させた張本人のが顔だけを後ろに向ける。

「さっき、大佐にも同じ事を聞かれたわ」

「・・そうなんだ・・・」

「・・・・君の手足とアルフォンス君の体・・・」

「!!・・・知ってたんですか?」

鎧の体では表情が変わることは無いが、それでもアルフォンスが驚愕したことは雰囲気で読み取ることが出来る。

「うん・・・・・ごめんなさい、大体の話は大佐から」

「いや・・・大佐に近しい人間は大体知ってるから別に・・・」

そう、エドワードは無表情に続ける。

「・・・そっか・・・エドワード君は失った物を取り戻すために・・・軍の狗とののしられてもその特権を使うために資格をとった・・・そうよね?」

「・・・ああ」

「そしてあるものを探すためにアルフォンス君と旅を続けている」

「ああ、そうだ・・・」

いくらか低くなったエドワードの声には困ったような笑顔を向けた。

「・・・同じよ、私も・・・探し物があるの」

「!・・・・まさか少佐も賢者の石を!?」

エドワードとアルフォンスは同時に顔を上げる。

「ううん・・違う、私の探し物は物じゃない。でもね・・・・」

は顔を前に向けると再び車を動かした。

「たとえ軍の狗でも、その立場で出来ることは多くなる・・・だから罵られようとどうしようと私はそれで成すべき事をする・・・それが理由かな」

前を向いているので表情は分からないが、エドワードは何故か彼女が微笑んでいるように思えた。

「・・・大佐にもそう答えたの?」

「ううん」

「じゃあ、何で僕達には教えてくれるんですか?」

「さあ・・・変な仲間意識かな?」

そう言った彼女は今度こそ苦笑していた。





”明日からも多分私が迎えに行くことになると思うから”

エドワード達を宿の前で下ろすとそう告げて、は司令部に帰って行った。

「なんだか少佐って不思議な人だね」

「ああ・・・・つかみ所が無いっつーか、何考えてんだかわかんない所は大佐に似てるな」

「僕たちにお姉さんがいたらあんな感じだったのかな?」

「かもな。さっ、いくぞ」

エドワードとアルフォンスは今宵の宿屋の中に消えていった。









翌日。定時前に仕事を終わらせたは、少し早めにタッカー邸に向かっていた。

敷地の外に車をとめて玄関へ向かおうとすると庭の方から楽しげな声が聞こえて来る。思わずそちらに足を向ければ、ほどなくして見えたアレキサンダーの追跡から本気で逃げるエドワードの姿。そしてその近くではアルフォンスに肩車されたニーナがはしゃいでいた。

「あ、お姉ちゃん!!」

いち早く来訪者を見つけたニーナが大きく手を振る。

少佐、今日は早いんですね?」

「うん、思いのほか書類が早く片付いたの」

ニーナの頭を撫でながらアルフォンスに言う。

「君達こそ調べ物はもういいの?」

「いやー・・・それが・・・あはははは・・・・」

乾いた笑い方をするアルフォンスの視線の先には、とうとう追いつかれてアレキサンダーに押しつぶされているエドワードの姿。

「なるほどね」

その様子から何となく大体のことを察する。

「駄目だよーアレキサンダー、お兄ちゃんつぶれちゃうよ」

尻尾を降るアレキサンダーの方へ走っていくニーナを見送りながらアルフォンスはポツリと呟いた。

「ニーナのお母さん、二年前に出て行ってしまったそうで・・・・」

「・・・・え?」

「明るく振舞ってるけどそれから随分寂しい思いをしていたみたいです。さっきも”お父さんが最近研究室の閉じこもってばかりでちょっと寂しい”って」

「・・・・・・・あ」

アルフォンスの言葉では既視感のようなものを覚えた。




『お父さん、お母さんあのね・・・・・』

『ああ・・・ごめんね。お父さんもお母さんももう行かなければいけないの』

『え・・・でも・・・今日は・・・・』

『明日の夜には帰ってくるから、それまでいい子にしてるんだぞ』

『・・・・・うん』

『いい子ね』






「少佐?どうしたんですか?」

「え・・・・あ・・・ううん・・・そう・・・なんだ・・・」

突然物思いにふけったをアルフォンスが覗き込む。

「・・・あれくらいの子にとっては、親が構ってくれないのは寂しいものよね・・・」










「残業したい?」

その日エルリック兄弟を宿に送り届けてから司令部に戻ってきたが言い出した突拍子も無い一言に、ロイは怪訝な顔をした。

「いや、君が仕事熱心なのは知っているが、わざわざ残業なんかしないでもいつも定時で終わるだろう?」

「あ、いえ。そうではなくその分、勤務時間内に外出許可をいただけないでしょうか?」

「外出許可・・・?理由はなんだね?」

「それは・・・・」

(ニーナと遊ぶため・・・・とは流石にいえないよね・・・)

理由を探しての自問自答。流石にそれは無理だろうとは自分で突っ込みを入れる。

「・・・まあ、いいだろう」

ロイはため息をついて笑った。

「君が来てから仕事の回りが速くなったのも事実だ、許可しよう」

「ありがとうございます!」

は笑顔で頭をさげた。

(まったく・・・こうしていると子供なんだがな・・・)


「少佐、話は変わるが最近セントラルで起きている事件の噂は聞いたか?」

「セントラルで・・・?いえ、とくに何も聞いていませんが・・・」

真剣な面持ちになったロイに、の眉がピクリとはねる。

「そうか・・・。まあ報道規制をしているから当たり前だが・・・・いいか、ここ最近セントラル周辺では国家錬金術師ばかりを狙った連続殺人事件がおきている」

「国家錬金術師を・・・ですか?」

「そうだ。犯人は未だ不明、ただ一つ確実なのは・・・」

「・・・相手が相当な危険人物・・・ということですね」

ロイは無言で頷いた。人間兵器と言われる程の国家錬金術師を何人も殺した犯人、それがいかに危険な存在であるかは言わずとも想像がつく。

「イーストシティではまだ被害者がでていないが油断は出来ん、君も気をつけたまえ」

「はい」





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.5

本当は今回で合成獣編完結の予定だったんですが、思いのほか長くなってしまったので分割しました;たぶん後2話で終わらせられる・・・はず(汗)一応、最後の部分はスカー編への微妙な伏線になってます。
そしてヒロインの回想シーン・・・・なんてベタな展開(爆)ニーナに幼い日の自分の面影を重ねてしまった
さて、その彼女が取った行動とは?ってなわけで次話に続く。
今回は全然夢らしいシーンがありませんでしたが、次回はあの人が動きます(笑)

どうでもいいですが、ヒロインの年齢を18歳にしたのは、今回でお分かりの通り車を運転させるためです(笑)そもそもアメストリスで運転免許所得資格が18歳以上かは謎ですが(いやそれ以前にそんなものあるかすら危ういですが)