第三研究所での戦闘で、重傷を負ったロイとハボックはセントラル市内の軍属病院へと搬送され、治療を受けた。命に別状は無い物の、二人が目を覚ましたのは事件から三日も後の事であった。
まだ自由に動き回る事の出来ない二人の病室にホークアイがずっと詰めていると、小さくノックする音が聞こえた。
「失礼します」
「少佐!?」
入ってきた軍服姿のを見て、三人は目を見開いた。
「はい?」
なぜ驚愕されているのかわからずは小首をかしげた。
第34話 成果と代償
「”はい?”ではありません!何をされてるんですか!?」
「何って・・・護衛に。いつまでも中尉お一人にさせるわけにいかないですから」
入ってくるなりホークアイに叱責されて、はきょとんとする。
「医師の話を聞かなかったのか!?両腿の大腿直筋を損傷しているんだぞ、歩いて平気な怪我じゃないだろう!!」
叱責を飛ばしたのはホークアイだけではなかった。次いでロイの怒鳴り声も飛んでくる。
はラストの鋭利な爪に腿を貫かれ、やはりこの病院でロイ達と共に治療を受けた。命に関わる類でこそないが、それでもあの時無理に動いたせいで出血量が多く、輸血をする事になったのだ。その上、全体重のかかる両足の筋肉を痛めているとなれば、足を動かしただけでも耐えがたい激痛が襲う事だろう。
「動ける程度に回復はしています。行動に支障はありません」
「そう言う問題ではないだろう。だから、あれほど深追いするなと言っただろうに・・・!!」
どうしたものかとが苦笑すると、横からハボックの呟きが聞こえた。
「大佐も人の事言えないでしょーが。司令官がのこのこと、戦場に出て来ちまって」
「うるさいな!!」
最もなその言葉にロイは目頭を吊り上げ叫んだが、傷にひびいて腹部を押さえた。
「あまり怒鳴らんでください。腹にひびく」
「貴様それが命の恩人に対する言葉か」
ロイはベッドから身を乗り出して、ハボックを指差した。
「それは感謝してますが、もうちょっと上手く焼いてくださいよ」
「ぜいたく言うな!おまえはレア!私はミディアム!どうだ私のほうがヒサンだろう!!」
「誰が焼き加減の話をしてますか!!」
顔のデッサンが崩れそうな勢いで低レベルな争いを始めた二人だが、すぐさま腹部の痛みに声にならない声を上げて悶絶する。
「だいたい何故私が野郎と同部屋なのだ」
「我慢してください。敵が寝首を掻きに来るかもしれない状況ですから、部屋は一緒の方が護衛しやすいんです」
ロイが半ば八つ当たりのように言うと、ホークアイは嘆息した。
「それだ!」
ロイは急に真剣な顔になると、険しく眉を寄せた。
「何故奴らはこの絶好の機会に、我々を殺しに来ない!?人死にがいつ出てもおかしくない、この病院と言う場所で・・・何故だ?」
「お取り込み中失礼します」
「お見舞いに来ました」
開かれたドアからフュリーと、応急処置の布をいたるところに巻いたアルフォンスが顔を出した。
「アルフォンス君、出歩いて大丈夫?」
「君、命を狙われてもおかしくない状況なのよ!?」
「大丈夫です」
とホークアイが交互に声を上げると、アルフォンスは手を振った。
「人造人間の気配がわかる人が付いて来てるんで」
「人造人間(の気配・・・・?」
「どういう・・・・?」
「ボクもよくわからない」
胡散臭そうな視線を向けられて、アルフォンスも明後日の方向を向いた。
「中尉、少しお休みになられては・・・交代要員を呼びますから」
「大丈夫よ」
普段健康管理に人一倍気を使っているホークアイの目元にクマが出来ているのを見て、フュリーは心配そうに言った。
「これが私の仕事だから。大丈夫」
だが彼女の返事は気丈な物だった。
「それより頼んであった物は?」
「これです」
「ありがとう。人払いお願い」
「はい」
ホークアイに筒状に丸めたセントラルの地図を渡すと、フュリーは病室から出た。
「なんだ?」
ホークアイが地図を広げるとロイは不思議そうにベッドに腰掛けた。
「歩測なんですが、第三研究所の地下から数えていた歩数と、私の歩行幅から大体の距離を計算しました。レリーフの大扉までの距離です」
が言うと、ホークアイはロイに見えるように地図を傾け、言葉を続けた。
「廊下が微妙にカーブしていて方角がわからなかったそうなので、少佐の話を元に第三研究所を中心に円を描いてみたのですけれど」
「よし!よくやった!」
大きく円の描かれた地図を受け取って、ロイは思わず口端を吊り上げた。
「ふむ・・・・」
「大佐これ!第二研究所が範囲に入ってる」
地図を横から覗き込んだアルフォンスは、円の中にすっぽりと収まったそれを指差した。
「まてまて。もっと面白いところがあるぞ。中央司令部外郭・・・大総統府もギリギリとどいている。大総統が人造人間(とつながっている可能性も有りか?」
「でも・・・ダブリスで人造人間(一味を掃討したのは、大総統が率いる部隊だった。アームストロング少佐も一緒に闘ってるよ」
アルフォンスはダブリスで起きた出来事をかいつまんで簡潔に説明した。
「グリードと言う人造人間(一味を軍の中枢に害なす輩とみなして掃討したと?」
「そう。殲滅ってところが腑に落ちないんだけど・・・・・・」
「・・・・・・・」
ロイは口元に手をやってハボックに目を向けた。
「我々に救護者を呼んでくれたのが大総統だったな」
「そう聞いてます」
「味方と見て良いか・・・・・?」
「ヒューズは”軍がやばい”と言っていたから・・・軍の存在をおびやかす規模の組織と考えるのが妥当だろう。上層部がどこまで入り込んでいるかわからんが、楽観視できない事は確かだ」
アルフォンスが帰っていくと、ロイは地図を前に腕を組んだ。
「しかし敵を引きずり出し、一掃する事が出来れば・・・」
「うむ。この国を一気に駆け上がる事が出来る」
ホークアイの言葉にロイは強く頷いて顔を上げた。
「バリーを留置所に行かせた時は、軍とつるんで暗躍する奴らの尻尾でも掴めれば上々と思っていたが・・・・予想外のでかいのが釣れたな」
「大きすぎる気もしますが」
「戦り甲斐があっていいだろう。引き続き君達にはバリバリと働いてもらうぞ」
”いいな?”と笑いかけたロイにとホークアイは敬礼する。
「信用できる手駒をもう少し増やしていただけると、ありがたいのですけど」
「あー・・・その件ですが」
ホークアイが苦い笑いを浮かべると、黙って話を聞いていたハボックがそちらを向いた。
「俺、一抜けさせてもらいます」
突然の言葉に、三人は一瞬顔を見合わせて、どう言うことだとばかりに彼の方を向いた。
「俺の両足、感覚無いんスよ。すんません、リタイアっス」
動かない両足に目を向けたハボックの気持ちを代弁するかのように、開け放たれた窓から入った風が弱くカーテンを揺らした。
大勢の外来患者でざわつく待合室に、一見場違いのような軍服姿が二つあった。
患者服のままソファーに腰掛け熱心に何かの本を読んでいるロイの背後に、とホークアイが直立不動のまま控えている。彼女達を気にしてか、あえてロイの近くに座ろうとする者はいなかったが、突然一人の男が同じソファーの一番はしにドカリと腰をおろした。
「よう」
「やあ、どこか悪いのか」
ロイは一瞬そちらに目を向けたが、男がロスの解剖を担当した鑑定医、ノックスだとわかってすぐにまた本に目を落とした。ノックスもまた、ロイと目をあわさないまま言葉を続けた。
「腰痛。鑑定医ってのは立ちっぱなしで、年寄りにゃこたえる」
そこで一度会話は途切れたがノックスは小さくあたりを見回すと、ロイにしか聞こえない程度の声を発した。無論また目は合わさないままだ。
「あれを焼いたのがお前さんだと聞いてピンときたよ。何企んでる」
「・・・企んでるとわかってて、あれをロス少尉と断定したのか」
ロイも本に目を落としたまま返答する。
「言ったはずだぞ。”もう少し上手く焼け”ってな。焼死体にしては腕の角度がおかしかった」
ノックスはロイが見ていないのを知っていたが、確かめるように自分の腕を動かした。
「歯型が一致したから一応ロス少尉としたがな、鑑定医が俺じゃなかったら、危なかったかもしれんぞ」
「ロス少尉が脱走した日に、軍の工場で大規模な火災があっただろう。かなりの数の焼死体が出たからな、焼死体に詳しいあなたが詰めているとふんだ」
「・・・あきれるな。イシュヴァール以来会ってない俺をアテにしたのか」
「戦友だからな」
ロイはそこで本から目を上げ、横目にノックスの方を見た。
とホークアイはそれまで直立不動を保っていたが、そのまま体の向きをかえて、ロイの座るソファーに背を向けた。
「”戦友”なんてユルい仲かよ」
ノックスは小さく舌を鳴らすと後ろ頭を掻いた。
「懐かしいな。お前さんが焼いて、俺が解剖。イシュヴァールは巨大な人体実験場だった。戦友なんかじゃねえ、共犯者だろ」
そこで看護婦に呼ばれたノックスは立ち上がった。
「あんまり危なっかしい綱渡りしてると、いつかしっぺ返し喰らうぞ」
「・・・もう喰らってしまった」
ロイはいつになく覇気の無い声で呟いた。
「誰かやられたのか?」
ノックスはロイの読んでいる本が脊髄解剖学の専門書だと気付いた。
「部下が脊髄損傷で下半身不随だ。なんとかならないだろうか」
「程度によるが脊髄ねぇ・・・」
ノックスは思案するように咥えた爪楊枝を動かした。
「兵役復帰は難しいだろうな」
診療室に入っていく直前、ノックスの残した言葉は、その場の三人にとって、この上なく残酷な物に感じられた。
「大佐」
ノックスが去った後もしばらくロイはその場で本を読み続けていたが、不意に聞こえた部下の声に顔を上げる。
「報告書読んでいただけましたか?」
話を聞いてハボックに先に会いに行っていたのだろう、まだ私服姿のブレダだった。
「いや、まだだ」
ロイは脊髄関係の本と一緒に膝の上に乗せてあった手帳を手にとった。ロイがそれにかけられた紐を解いているうちに、ブレダは用心深くあたりを見回し、ロイの耳元に口を寄せた。
「ハボックの足の事ですが、ドクター・マルコーがいます」
それはとホークアイの耳にも届いた。
「大佐」
はマルコーの名を聞いて思わず身を乗り出した。
「以前私の怪我を治してくださったのは彼です」
「!・・・本当か!?」
「はい。隠していて申し訳ありません」
それはスカーとの戦闘で負傷した際、エルリック兄弟と共にリゼンブールへ向う途中での事だった。当時ロイには怪我は錬金術師の医師に治してもらったとだけ伝えていたため、こんな事態でもなければずっとそのままだっただろう。
「いや・・・だとすれば・・・」
はあの時、軽度ではあるが内臓にも損傷を負っていた。
(医療系錬金術師で賢者の石を持っている!)
「俺の休暇、延長ききますか?」
「どうとでもしてやる」
ロイはバタンと本を閉じた。
「行け!」
それは、もはや絶望的かと思っていた所に差し込んだ一条の希望の光だった。
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.34
ーというわけで、お待たせしました(笑)
11巻発売につき連載再開です。とかいいつつ内容的にあんまり進んでなかったり(苦笑)大きく話が展開するのは次回の第35話です。嬢の決意が明らかになりますよ〜。
しかし、嬢もよく怪我します(いや私のせいなんですが・爆)
大腿直筋、保体の授業で習った方も多いかと思います。私も中学の時に覚えさせられました。太ももの真ん中にある筋肉、そこに穴があいてるわけですが・・・普通に考えて動けないと思います(苦笑)でもまあ、そこはそれヒロインも例に漏れずデタ・・・・(以下省略)