「手配中の殺人犯が浸入した!!残っている職員はすみやかに退避!!」
バリーの暴走を逆手に取ったロイは、あろうことか正面から堂々と第三研究所に突入した。
銃をかざして歩く彼に続くのは黒尽くめの戦闘服に身を包んだとハボック。そして鎧姿のアルフォンス。どう見たところでただ事ではないと悟った研究員達は、巻き込まれるのは御免だとばかりに一斉に散り散りになる。
「何事ですか!?」
「うむ!西区留置所を襲撃した凶悪殺人犯が侵入した!」
ロイは入れ替わりに走ってきた警備兵にもっともらしい事を言う。
「犯人は我々にまかせろ!警備兵は出入り口を封鎖!」
「はっ!!」
「増援を呼びますか?」
「もう呼んである!君達は出入り口を守っていてくれ!」
援護しようとついてきた警備兵が体よく追い払われる様子に、アルフォンスは密やかにロイに問う。
「いつ呼んだんですか?」
「嘘だ」
ロイは至極当然のように言ってのけた。
第32話 理の狭間
研究所の奥まった位置にある階段を下りると地下通路へと出た。
「大佐!」
それぞれが周囲の様子を探っていると真っ先にハボックが声を上げる。
彼が示したのは、頑丈な南京錠のかけられた金網の扉だ。こちら側から突き破ったように空いている穴に確証を得ると、アルフォンスが錬金術で鍵を壊した。
ギッと重い音をたてて開いた扉の奥には、左右に廊下が続いている。照明が届かぬその先はどちらも真っ暗闇だ。
「バリーはどっちに行った?」
ここまでたどり着いたはいいが、肝心な目標を見失ってしまったのでは意味が無い。四人は少しの間左右を見比べていたが、結局ロイとハボック、とアルフォンスの二手に別れて探索する事になった。
「深追いだけはするな、適度に情報をつかんだらすぐに戻れ。いいな?」
「はい、大佐もお気をつけて」
「ああ」
別れ際にの肩を掴んだロイに彼女は強く頷く。
お互い背を向け様に一瞬交錯した意味深な瞳に、アルフォンスは何となく上官と部下以上の関係を感じとったようだ。
「少佐、ボク作戦にジャマじゃないかな」
ロイ達の姿が見えなくなるとアルフォンスは前を進むにためらいがちに声をかけた。
「そんなこと無いわ、アルフォンス君がいてくれて心強いもの」
するとは微笑んで彼を振リ返る。
「何かあったら頼むわね」
「はい!」
「よかったんスか?大佐」
「何がだ」
達と反対方向を選んだロイとハボックはしばらく無言で歩いていたが、ふいにハボックがそんなことを言い出した。
「組み合わせの事っすよ。よかったんですか?俺で」
ロイのことだ、真っ先にと組むとばかり思っていたのに、何故か彼は自分と組むと言い出したのだ。
「頭の働かないお前と作戦の詳細を知らん一般人のアルフォンス・エルリックを組ませる訳にいかんだろうが。そうでもなければ、私だって何が悲しくて野郎と二人きりで暗闇を歩かねばならんのだ」
「あーそうですか」
ハボックはそれは悪うござんしたねと毒づく。
「ーと言いたいところだが・・・・」
「はい?」
だが、思わぬ言葉の続きにハボックはロイの方に目をやる。彼自身は前を向いたまま淡々と言葉を続けた。
「私の勘が正しければ、こっちは”当たり”だ」
「てぇ事はバリーもこっちに?」
「いや、上手く言えんがそれとは違う気がする」
「・・・へぇ・・・」
勘だけでそこまで判断してしまうロイに、ハボックは思わず感嘆の意を漏らした。
科学的な根拠は無いが、人間のいわゆる第六感と言うものは時にとんでもない力を発揮する事がある。狙って出来るものではないが、ロイのように幾多の修羅場を潜り抜けてきた軍人は本能的にそれを使い分ける事が出来るらしい。
現にハボック自身、その勘に任せた彼の作戦が幾度と無く成功しているのを身をもって知っている。
そこまで考えてハボックは納得した。
つまり彼は自分と別行動をさせる事に不安はあっても、そもそもの危険から少しでもを遠ざけたかったのだ。
「なんつーか・・・さすがっすね」
悔しいが男としてこう言う所は共感出来てしまう。そう思ってハボックは苦笑した。
「何のことだねハボック少尉」
わかり切った事を訊くロイは僅かに笑みを浮かべていた。
「なんか殺伐とした雰囲気っスね」
ようやく少し開けた場所に出ると、ハボックは今まで被ったたままだった覆面を外してあたりを見回した。
「まるで監獄だ」
殺風景なその場所には同じようなつくりの部屋が並んでおり、その窓には鉄格子がはめ込まれている。二人はその中の一つに足を踏み入れた。
「かなり古い物のようだ。もう使われていない実験室だな」
薄暗い室内は酷く散乱しており、見るも無残な状態だ。
「・・・・・まともな実験はしてなさそうだがな」
ロイは実験台の下に飛び散った血の痕に顔をしかめる。
「仕留め損ねた上にここへの侵入を許してしまうなんて、何をやってるのかしらあの子達は」
「!」
突然聞こえたアルトの声音に、二人は即座に銃を構えた。
「あなた達の事をみくびっていたようね」
靴音も高らかに、部屋の奥からゆっくりと人影が現われる。それは息を呑むような美しい女、ラストだった。ただし、そのガラス球の様な紫の瞳からは人間らしい生気は感じられない。そこにあるのはどこか超然として空恐ろしい、虚ろな美だった。
「大佐・・・ウロボロスの入れ墨っすよ」
「ああ、どうやら本当に当たりのようだな」
ラストの胸にあるそれに気付いてロイは僅かに笑みを引きつらせた。
「さすがに色々嗅ぎ回ってくれただけあってよく知ってるわね」
ラストは妖艶に微笑むと優雅な仕草で腕を組んだ。
「・・・・マース・ヒューズを知っているか?」
ロイはラストに銃を向けたまま口を開く。
「よーく知ってるわ。頭の回るいい男だっわね」
ラストは伏せていた目をうっすら開いた。細い瞳孔が鋭く細められる。
「止めを刺せなかったのが残念だったわ」
その言葉の直後、ロイは即座に引鉄を引いた。ラストの左腿を銃弾が貫通する。
「跪け。洗いざらい吐くんだ」
ロイの声音はこれ以上に無く、冷たいものだった。
「無理ね」
だが、ラストが撃ちぬかれた部分に手を触れると、パリっと音をたて弾痕が塞がっていく。
「あなた達じゃ私を跪かせる事はできない」
そう言いながら彼女が体を起こそうとした瞬間、続けざまに三発の銃弾が額、胸、心臓をそれぞれ撃ち抜いた。
「ふ・・・ふふ・・・」
人間であるならば間違いなく即死の位置であるにもかかわらず、ラストは衝撃に耐えて足を踏み留めると笑みをもらした。
「さすがイシュヴァールの英雄は容赦ないわね」
自らの額から滴る血を舐めとって微笑むラストに、ハボックは思わず声を漏らした。
「・・・・・・・・人造人間・・・・・・・・?」
「あらよく調べたわね。ここまでたどり着いたごほうびに見せてあげる」
顔をひきつらせた彼の言葉にラストはにっこりと微笑んで、刃のように爪を伸ばした。そして塞がりかけた胸の弾痕を自ら両手で広げた。
「見えるかしら?賢者の石よ」
そこには深紅の輝きを放つ石が、まるで心臓のように大きく脈打っていた。あまりの光景に、さしものロイも目を見開き言葉を失う。
「伝説上の代物と言われる術法増幅器・・・・・この石を核に造られた人間、それが私達よ」
「・・・化物め!」
眉間にしわを寄せたロイは精一杯の皮肉をこめて言ったが、その頬をつぅっと冷たい汗が伝う。
「失礼ね。あなた達と変わらない外見に五感もある。感情もある。生みの親に対する愛情もある」
髪を払ったラストは目を開く。
「人間よ」
彼女と目が合ったハボックは、その無機質な光に底冷えするような恐怖を感じた。
だが、ロイはわざと笑んで見せた。
「ほぉ・・・重大な秘密を話したという事は、我々を生かして帰す気が無いという事か?」
ロイはラストの背後にある、彼女が通ってきたと思われる僅かに開いたドアに目をやった。
「・・・その奥に何があるのか・・・見せてもらうぞ」
それが合図だった。
直後に伸ばされた爪にロイは反射的に身を捻る。
「ち・・・・・」
直撃は避けたが真っ二つに切断された銃と浅く裂かれた頬に舌打ちした。
「ハボック!援護しろ!」
「アイ・サー!!」
銃を投げ捨てたロイが発火布をはめると、ハボックがショットガンを構える。だが、彼らが次の行動に移るよりも、ラストの攻撃の方が速かった。
「遅い!!」
「ぶわっ!?」
天井近くを通っていた水道管から突然多量の水をかぶって二人は声を上げた。
「発火布が湿気ってちゃお得意の炎も出せないわね」
見事に濡れ鼠になった二人を一瞥してラストは口端を吊り上げる。
「うおおおおおおおおおお!!」
身の危険を感じた二人が全速力で出口に向かって走ると、そのすぐ後ろで次々と物が切断される。滑り込むようにして部屋から飛び出した二人はそれぞれ出口を挟んで壁に身を隠す。
「どうすんスか!!このままじゃなぶり殺しですよ!!」
「ふん・・・・なめられたものだな」
ハボックの言葉にロイはバカにするなと口を引き結んだ。
「むしろ好都合だろう。大量の水があるという事は大量の水素もあるという事だ」
ロイは部屋から流れ出した水に発火布をはめた右手をついた。
「可燃性ガスは練成し放題。加えてこの密閉空間」
練成反応の光が走ると、ハボックは火のついたライターをラストの立つ真上に投げ込んだ。そしてすぐさま二人は壁に身を隠して耳を塞ぐ。
直後、地を揺るがすような轟音がなり、出口からは爆炎が噴出した。
「私の独壇場だろうが」
「!・・・これは・・・」
アルフォンスと共に暗い通路をひたすら歩いていたは、僅かな照明の下に点々と続く血痕に気付いて足をとめた。
「・・・血・・・・?」
「ええ」
その場にしゃがみこんだの後ろから、アルフォンスが覗き込む。
「どうやらバリーはこっ・・・・・!」
「!・・・・何の音?」
突如地鳴りのような重い響きと僅かな振動を感じては立ち上がった。
「・・・爆発・・・音・・・?」
音源は今歩いてきた遥か向こう、すなわちロイとハボックが向かった方向だ。
(・・・ロイ・・・・?)
それに気付いたは漠然とした不安を抱いた。振り返った彼女の頬を汗が伝う。
「・・・どうしよう?」
アルフォンスもそれに気付いたのだろう、少しおろおろとしながらと通路の向こうを交互に見比べた。
「・・・・・・・行こう、バリーを探さなきゃ・・・」
だが、は後ろ髪を引かれながらもまた足を進め始めた。
「いいんですか?」
それに気付いてアルフォンスが慌てて追いかけてくる。は真っ直ぐ前を向いたまま無感情に声を発した。
「今はバリーの追跡が最優先事項よ」
嘘だ。
本当は任務など投げ捨てて、今すぐ引き返したかった。先ほどの音からして、何かがあったのは間違い無い。そう思うだけで心臓が跳ね上がる。
だが、ロイが自らの危険を冒してまでも進めたこの作戦を、自分の感情だけで棒に振るなど出来ない。
はアルフォンスに気付かれぬようただ強く拳を握った。
紅い液体が焼け爛れた床に滴り落ちる。ラストの鋭利な爪に脇腹を貫かれたロイの血だった。
「言ったはずよ。”賢者の石(が核だ”と」
ロイがもぎ取った賢者の石から再生したラストは、美しく微笑んで驚愕に目を見開いているロイに顔を近づける。
「私達はあなた達人間より真理に近い存在」
彼女は再生を終えた足を床に着く。
「進化をとげた新たなる人間の形・・・・とでも言っておきましょうか?」
そうして爪を引き抜くと、ロイは力なくその場に崩れ落ちた。
「ごめんなさいね。あなたは大事な人柱候補だから殺したくなかったんだけど」
ラストは倒れたロイの手から発火布を引き抜くとその爪で引き裂いた。
「ここまで首を突っ込まれたら放っておく訳にいかないの」
「ぐ・・・・・」
目の前でびりびりと破られていく発火布を視界におさめながら、ロイは何とか身を起こそうと腕に力を込める。
「さて、まだネズミが入り込んでいるようだし、そちらも始末してこようかしら」
「貴様・・・」
ラストはロイを一瞥すると踵を返した。怒りと苦悶に表情を歪めたロイは必死に立ち上がろうとした。だが、力を込めた事で傷口から血が噴出し、あえなく床に返り咲いた。
「目の前で部下が冷たくなって行くのを見ながら、あなたも逝きなさい」
ラストは冷笑と共にその言葉を残して姿を消した。
「ハボック少尉・・・おいハボック!」
かすむ視界の先には自分よりも前に貫かれたハボックが横たわっている。その体から流れ出した出血量のためか彼はロイがいくら叫んでもぴくりとも反応を示さない。
「どいつもこいつも私より先に・・・くそっ!!貴様ッ私より先に死ぬ事は許さんぞ!!」
自らもほとんど動く事の出来ない苛立たしさに、ロイは我武者羅に叫んだ。
「ハボーック!!」
長かった廊下をようやく抜けると、とアルフォンスの前に広大な空間が広がった。
まず目に入ったのは中央にレリーフのある巨大な扉のような物。
(・・セフィロトの樹?・・・いえ、違うわね、似てるけど・・)
昔読んだ古い文献の中にあったそれとレリーフを重ねて、は首を振る。そして扉の下にいるバリーの元へ歩み寄った。
「遅かったね姐さん」
バリーの足元には血まみれになった彼の肉体が転がっている。はそれを見て一瞬表情をゆがめた。
「へっへっへみっとも無ェ物見せちまったァ」
バリーはどこか自嘲気味に笑いながら、自ら切り刻んだ肉体を見下ろした。
「見ろよオレの肉体。こんなに腐っちまってよゥ・・・バリーの肉体によそ者の魂をぶち込んだからズレが生じたんだろうよ。元々別だった物同士だ。反発して当然だわな」
バリーはそこまで言うと部屋の入り口の方に目をやる。新たに現われた気配にとアルフォンスも振り返った。
「なぁ・・・ラストさんよォ」
「ナンバー66。そう・・・あなたをエサにまんまと釣られたって訳ね」
この場にあったバリーの姿に、ラストはぎりっと歯を噛み締めた。
「なぜ大佐に協力したの」
「へっへ・・・オレぁこんな性格だ。元々おめェらの下でいつまでもこそこそと生きてくつもりは無かった。だからってシャバに出てもおめェらの影がちらついて思いきった事ができねェ。この状況を打開するためにゃ、おめェらがいなくなってくれるのがありがてェのよ」
バリーはすっとラストに向けて肉切り包丁を構えた。
「なにより、おめェさんを斬りてェ!!」
「困った男ね」
ラストは嘆息するとの横に佇むアルフォンスに目をやった。
「鎧くん、あなたも困った子ね。こんな所に来てしまうなんて」
「オレ様シカトして何をゴチャゴチャ言ってんでェ!!」
すると、無視された事に腹を立てたバリーは真正面からラストに向かっていった。
「続きは断末魔で聞いてやるぜラストさんよォォオオオオォォォ!!」
ラストはただ腕を組んでいたが、バリーの包丁が彼女の体に届く直前、彼の動きが止まった。
「あれ?」
「うるさい男は嫌いよ」
ラストの爪に一閃されたバリーの鎧は一瞬にしてばらばらになり、音を立てて床に散らばった。
「さて・・・」
ただの金属片になったバリーを一瞥して、ラストはの方へ歩いてきた。
「光耀のお嬢さん、まさかあなたまでここに来るとはね。ちょっと早いけど、まあ仕方ないわ。あなたには私と一緒に来てもらうわよ」
「・・・ウロボロスの入れ墨・・・!」
カツカツと音をたてて近付いて来るラストの胸のそれに気付いてが声を上げると、彼女はぴたりと足を止めた。
「ああ、あなたの意識があるときには会ってなかったものね。”お久しぶり”より”初めまして”のが、いいかしら?リアン・フェアクリフ」
「!・・・・その名前を知ってるのなら・・・・」
ラストの口から出たその名前に、はコクリと息を呑んだ。
「・・・バーナード・フェアクリフとアナベル・フェアクリフを・・・・知ってるわね?」
「知ってるも何も・・・・・」
唸るようなの低い声に、ラストはクスリと笑って前髪をかきあげた。
「あの二人を処分するように言ったのは私ですもの」
その言葉を脳で理解するよりも先に、は驚くべき速さで腰のホルスターから銃を抜き放つとその銃口をラストに向けた。
「そう・・では私が銃を向けるべき相手は・・・・あなたね」
いつかホークアイと話したように、銃を使うのは本当に守りたい人たちのためにだけと決めていた。けれど同時に、もう一つだけ決めていた事があった。
両親を殺した者に復讐するその時だけは、必ず銃を使うと。
静かに顔をあげたの瞳はいつしか、エドワードに見せたあの瞳だった。
一切の感情が抜け落ちた絶対零度の碧。その氷の宝玉は身も凍るような怜悧な光でラストを貫いた。
そしては迷うことなくその引鉄を引いた。
一発目の銃弾は頭部を撃ち抜いた。明晰な頭脳を持っていた自慢の父、バーナードと同じように。
二発目の銃弾はその左目を撃ち抜いた。美しく聡明で大好きだった母、アナベルの美しい碧眼と同じように。
三発目の銃弾が咽喉を撃ち抜くと、懐かしい生まれ故郷イダヴェルの村で、幸せに暮らしていた幼い頃の記憶が脳裏に浮かんだ。
四発目の銃弾が心臓を撃ち抜くと、セントラルに引っ越してきたばかりの頃の記憶が脳裏に浮かんだ。
五発目の銃弾が腹部を撃ち抜くと、焔に包まれた父と母の姿が脳裏に浮かんだ。
そして最後の一発を額に撃ち込んだの脳裏に浮かんだのは、18歳の誕生日の夜、焼け付くような激痛に泣き叫びながら心臓の真上にナイフで練成陣を刻む自分自身の姿だった。
「私は・・・この瞬間のために生きてきた・・」
全ての弾を撃ち終えて硝煙を上げる銃を手にしたの瞳からは、幾筋もの涙が流れ落ちていた。今まで押し殺してきた全てのものが複雑に入り混じった激情に、その表情は泣き笑いのようだ。
ゆっくりと一発ずつ撃ち込まれた弾を避ける事もできたであろうラストは、何故かそうせず黙って全てをその身に受け、静かに佇んでいる。
「そう両親の復讐のために。美しいわね」
そして再生の終わった彼女は、に向かって微笑んだ。
「けどこうは考えなかったの?あなたのせいであの二人は死んだって?」
「!!」
の体がビクリとこわばった。銃を構えるその手が僅かに震え出す。
「あら図星?そうよねぇ考えたくなんか無いわよねぇ・・・病気で死にかかったあなたのために賢者の石に手を出して、それが原因で死んだなんて」
「・・・っ・・・・!」
片手をあげて目を細めたラストの言葉にの瞳が歪んだ。
「少佐聞いちゃ駄目だっ!!」
あきらかに動揺しているにラストが近付くのに気付いてアルフォンスが声を上げた。
「あなた”扉”を見たでしょう?ねぇそれがどうしてだかわかる?」
目を見開いたまま小刻みに震えて動けずにいるに、ラストは一歩一歩、ゆっくりと近付いていった。
「あれはね、本来人体練成をした者にしか見れないのよ・・・そうねぇこの際だから教えてあげましょうか」
ようやく一歩だけが後退ると、ラストはその目の前で再び立ち止まった。
「病気のあなたの体をあの二人が再構築した時、あなたは仮死状態だったのよ。一時的とはいえ魂がその肉体を離れたその時に行われた練成は・・・・・極めて人体練成に近い状態だった。それがあなたが扉を開けた理由」
ラストの言う”扉”というものに思い当たるのは一つしかない。それを踏まえれば、あの夜自分の前に現われた”リアン・フェアクリフ”が何者であったかに気付く事が出来たであろう。
だが、今のにはそんな余裕は無かった。
次々とラストの唇から紡がれる自分の知らない自分の過去。一種恐怖にも似た感覚に囚われたは、ただその呪詛のような声を聞くことしか出来ない。
「ところが、実際には死んでないわけだから、それは単なる全身の再構築という状態に留まった。そのため何の代償も取られること無く、今こうしてあなたは生きてる。偶然に偶然が重なったせいでね」
細められたラストの瞳孔にの歯が勝手にガチガチと鳴った。何かを否定するかのように彼女は小さく首を振る。
だが、ラストの甘く残酷な声はさらにを追い詰めた。
「あなた達は私達のことを人造人間(だの化物だのと罵ったけど、あなただってその同類よ。極めて人工物に近い肉体でありながら人間の魂を宿し、人間でもなければ人造人間(でもない、世界の理からはみ出した異端者、どこまでも中途半端で哀れな出来損ないの生命」
「っ・・・め・・・て・・・」
耳を塞いでしまいたかった。けれど体が震えて動く事が出来ない。
悲鳴にも似た小さな叫びがラストに届く事は無かった。
「それがあなたよ。・」
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.32
というわけで、ある意味最重要ポイントに当たる32話でした。
本編中でなにやらラストが詳しく説明してくれましたが・・・・わかりづらくてすみません(苦笑)
嬢のこの設定は、実の所書き進めるうちに思いついたものです。
兄弟サイドの方もそうですが、嬢の”苦悩”と”成長”はある意味この連載で一つのテーマになりつつあるようです。原作でエド達が真実に近づきかけては突き落とされ苦悩し、また進んでいくように、彼女もまた、悲しんで苦しんで前に進んでいきます。
第三部も残りあと少しですが、その最後に彼女はある一つの決意をする事になります。