切り離された肉体が本来の魂を求めてこの場に現われた。
バリーの言葉に少なからずその場の3人は驚愕する。
「・・・・・・ど・・・どうするんだ?」
「バカな事訊くんじゃねェ!!オレの体だぞ!?」
ハボックの言葉にバリーは慌てる。
「そ・・・そうだよな。おまえの体だと言うなら元に戻・・・」
「てェ事はよぉ!!」
困惑気味のファルマンの言葉はバリーの叫びによって遮られた。
「オレはオレ自身の手でオレの肉体をかっさばけるってこった!!世界広しと言えどもてめェの肉体を思う存分ぶった斬れる奴ぁいねェだろ!!げはははははははは!!」
明らかにずれたバリーの考えに全員が唖然とした。
「ああ、そういやオレが初めて斬ったのは女房だった。オレにゃ不釣合いないい女だったさ」
だが、バリーはまるで感傷に浸るかのように呟きながら、檻の中の肉体に近付く。先ほどから揺すり続けているせいで、格子はますます曲がっていた。
「その時と同じで魂がざわざわするんだよ!どうしようもなく魅かれるんだよ!!斬っちまいてェってなァ!!!わかるか!?わかんねーだろ!?」
「わかんねーよ!!だいたい元の体に戻りたいって思うのが普通じゃないのか!?」
殺人鬼の狂った理論なんぞ分かってたまるかとばかりのハボックに、バリーは小さな声で呟いた。
「・・・・・・あの体、もう保たねェよ」
バリーの肉体がまとうぼろぼろの服の間からのぞく肌は表面が腐り始め、ハエがまとわりついていた。
「さっきからしてた腐敗臭はこれか・・・」
鼻をつくような独特の刺激臭にファルマンは鼻を押さえた。長時間その悪臭にさらされて、に至っては顔色を悪くするほどだ。
「だめだバリー。斬る事は許さん」
「なんでだよ!!オレの体だぞ!?オレの所有物をどうしようがオレの勝手だ!!」
「だめだ!!こっちにも都合があるんだよ!!」
とうとうハボックとバリーは言い合いを始めた。
第31話 錯綜のセントラル
「どうした?」
何を言っているかまでは聞き取れないが、言い合うような声が聞こえてきてロイは目を細めた。
『・・・・ケンカかしら、お客さんとトラブルみたい』
今話しているのは”アリス”から再び交代した”エリザベス”だ。
「そういう無粋な客には早々にお帰り願いたいね」
『本当に。けど、アリスが特別席にご案内したみたいだからこれでしばらくは・・・・・・いけない、電話はまたにするわ。上客が来てしまった』
そこで突然”エリザベス”の声が途切れ、直後発砲音が聞こえた。
「どうした?エリザベス、おい!お・・・・」
ふいに、ロイの脳裏に、あの時の記憶が蘇る。何も聞こえてこない電話先で、親友が冷たくなっていったあの瞬間が。
「!!」
顔色を変えたロイは叩きつけるように電話を切った。
「!・・・銃声!?」
バリーとハボックの言い合いが続いている中、突然聞こえた銃声にはホークアイのいる塔の方を振り仰いだ。
(中尉の方に何かあったわね・・・!)
遅れて他の三人も同じように塔に目をやれば、今度は断続的に聞こえてくる銃声には歯噛みした。
「ジャン!ここをお願い、中尉を援護するわ!」
「了解!気をつけろよ!」
ハボックは言うが早いかすぐさま駆け出していくの後姿を見送った。
「っ・・!!」
狭い路地をは出来うる限りの速度で疾走する。
続いていた銃声が立った今突然止んだ。それが何を意味するかを理解して嫌な汗が額を伝った。の走る速さは一般的に言ってかなり速い部類に属する。だが、こう言った時にはさほど役に立たない物だと内心毒づいた。
塔までの距離が全く縮まらないような焦燥に駆られ、限界以上にさらに速度をあげた。少なくなった酸素を求めて体が悲鳴をあげたがそんな事はどうでもいい。
ようやくたどり着いた入り口から長い階段を駆け上がる。グラトニーに首を締められ端正な顔を苦悶に歪めているホークアイの姿が見えた。握られたハンドガンはやはり想像通り弾切れを起こしているらしく彼女には取るべき術が無い。
「中尉!!」
グラトニーが大きく口を開いた様子には考えるよりも先に合わせた手を壁に付く。練成反応の光に壁に亀裂が走るのと、下方で急ブレーキの音がしたのはほぼ同時だった。
「!!」
”食べていい?”と自分の首を締め上げているグラトニーが口をあける。ホークアイがきつく目を閉じたその時、突然グラトニーの体を真下からあらわれた巨大な杭が貫通した。
「く・・・」
解放された首を抑えつつグラトニーの横をすり抜け、何とか壁際まで後退したホークアイは激しくむせかえる。
「中尉!!」
その間に駆けつけたフュリーがその手に持った二丁の銃のうち一丁をホークアイに投げ渡す。彼女がそれを受け取ると同時に、二人はありったけの弾をすでに再生しかけたグラトニーに叩き込んだ。
その衝撃で僅かに押されたグラトニーは外側の壁に背を打ち付けるが、物ともせずにいっと笑った。
「弾切れ?弾切れ?」
使い物にならなくなった銃を構えたホークアイとフュリーを見て嬉しそうに両手を広げた。
「それじゃいただきま〜〜〜す」
だが次の瞬間、二人の間を赤と青の閃光が通過した。
螺旋のように絡んだそれがグラトニーの体に当たると同時に眩い閃光が走り、紅蓮の焔が爆ぜる。轟音と爆音が鳴り、その衝撃で壁を突き破ったグラトニーは黒焦げになって吹き飛ばされた。
強すぎる光に目を妬かれるのを防ぐため、反射的に伏せていた目をホークアイが開くと、その周囲に未だ残る光に耀きながら微細な氷の欠片が降り注いでいた。
この幻想的な光景を作り出せる者と、あの紅蓮の焔を放てる者などを彼女は他に知らない。
「大佐、少佐」
振り向いたそこには、息を切らせたロイとが苦笑交じりに佇んでいる。
「大丈夫ですか?」
「はい・・・すみません。・・・ですが」
とりあえず無事だあったことにが安堵すると、ホークアイはその隣に立つロイをキっと睨み付けた。
「なんで出て来たんですか!!」
そして容赦の無い叱責が飛ぶ。
「万一の事があっても無視していれば敵の追求を逃れられるのに!こんな所にのこのことバカですか!!」
「あーわかったわかった私がバカだった!!」
その剣幕にロイは方耳を塞いでいい加減な返事をする。
「それに・・・かはっ!!」
「「中尉!?」」
言葉を続けようとしたホークアイは突然咳き込んでその場に膝を付いた。
「っ・・大・・・丈夫です・・・ちょっと喉をやられただけですから・・・」
が駆け寄って覗き込むと、ホークアイはかすれた声でそう言った。
先ほどグラトニーに首を締められた時に、喉笛を潰されかけたのだろう。そのまま突然大声をあげたために、傷付いた気管支が痙攣を起こしたのだ。
「あ」
ーと、塔から見える下界の様子に、フュリーは望遠鏡を覗いた。
「目標が逃走開始!」
「むっ!」
ロイが素早くフュリーから渡された望遠鏡を覗くと、とうとうの練成した檻から逃げ出した肉体を追っているバリーの姿があった。
「・・・よしいいぞ、巣に逃げ込めよ・・・・」
壁から離れたロイはすぐさまフュリーに指示を出す。
「曹長撤収だ!ゴミひとつ残すな!私は目標を追う!」
「はい!」
「それと中尉・・・・・君は曹長と先に戻れ」
「・・・で・・すが・・・・」
ホークアイは苦しげ息をつきながらロイを見上げた。ロイとてここで戦力を減らしたくは無かったが、今のホークアイは一時的な物とはいえ、呼吸するのもかなり辛い状態だ。
「二度は言わん。理由はわかるな?」
この先に何があるかわからない以上、無理をさせればどうなるかは容易に想像がつく。そのためロイはわざと突き放したような言い方をした。
「・・・っ・・・・・」
日頃理不尽な事を言ってはいても、こう言うときにロイが何を考えているかわからないほど短い付き合いではない。肝心な時に何も出来ない自分に腹が立つ。だが、確かにこんな状態で無理やりついていけば逆に足を引っ張りかねない。そんな展開だけは御免だ。
「・・・お役に立てず・・・申し訳ありません・・」
苦渋の選択に、ホークアイの声は震えていた。俯いた彼女の拳が強く握られている。
「いや、よくやってくれた。後は私たちに任せろ。行くぞ少佐!!」
「・・・はい!」
が踵を返し際、一瞬目が合ったホークアイは今にも泣きそうな顔をしていた。
路地から飛び出してきたハボックとファルマンの姿にロイは車を止めた。その助手席のはの姿がある。
「目標は!?」
「バリーが追ってます。急いでください」
言いながらハボックはすぐさま後部座席に乗り込んだ。
「ファルマンは留置所襲撃犯に監禁されていた事にしろ!被害者を装え!」
「はっ!」
「我々は目標を追う!」
「大佐!!」
ロイが再び発車させようと思った時、車の後方からアルフォンスが走ってきた。
「アルフォンス君何故ここに・・・」
「ヒューズさんの件と関係があるんでしょう?」
ファルマンが引きとめようとしたが、彼は構わずロイに問い掛けた。
「・・・・・来るか?」
自分を真っ直ぐ見つめる目に、ロイはただ一言そう言った。アルフォンスの答えは一つしかない。
「はい!」
屋根を走る肉体を追って街中を走るバリーを、道行く人々が奇異の目で見つめる。
さらにそれを追うのは、ロイととハボック、そしてアルフォンスを加え四人を乗せた車だ。ロイは運転しながら、外を走るバリーに見失うなよと念を押す。
「・・・市街地方面へ向かってるみたいですね」
人通りの増えてきた窓の外の風景には眉を寄せる。
「ああ。あまり目立つのは好ましくないな」
非合法な手段を使っているだけに、作戦があまりに表沙汰になるのは避けて通りたいところだ。
「大佐、さっき黒髪の長い細身の・・・・・・えーと・・・・ウロボロスの入れ墨がある人に会った」
走行が安定してきた頃、アルフォンスは後部座席から身を乗り出した。
「前に一度第五研究所で会った事があるんだ、たしかエンヴィーって名前」
ロイは前を見ながらアルフォンスの話に耳を傾ける。
「その仲間と思しきグリードって人にも南部で会った。人造人間だった」
その言葉にロイは思わずハンドルを切るのを忘れた。
「うぎゃおわ!!」
派手なスリップ音をたてて横に滑った車に外のバリーが驚いて悲鳴を上げる。
「あぶねェなバカ!!」
「おお、すまん」
バリーの罵声に手を上げて、ロイはなんとか車体の傾きを元に戻した。
「待て待て待て!人造人間(だと?そんな事」
「”ありえないなんて事はありえない”そのグリードって人の言葉だよ」
ロイが皆まで言う前にアルフォンスはその言葉を遮った。
「さっきなんてエンヴィーって人が犬から人へ変身してた。ボクもありえないと思ってたんだけどたしかに見たんだ」
戯言を言っているとは思えないほど真剣なアルフォンスの声音に誰もが息を呑んだ。
「二人ともすごい再生能力を持ってた。グリードは頭を半分吹き飛ばされてもすぐに元に戻ってたし・・・・っていってお信じてもらえるかな」
「・・・・ええ、信じるわアルフォンス君」
は小さく頷いた。
「さっき中尉を襲った奴も、何発撃ち込まれても効果が無かったわ。おそらくあれも人造人間(・・・・」
「・・・・なんと言うかデタラメ人間の万国ビックリショーだな」
以前彼の親友が自分のことを表現するために使ったその言葉を、ロイは精一杯の皮肉をこめて口にした。
ロイは高い壁の影に車を止めた。日はいつの間にか完全に落ち、すでにあたりは暗闇につつまれている。
「本当にここに入っていったのか?」
「間違いねェ」
「第三研究所・・・やはり軍の施設ですね」
は窓からいくつもの明かりの漏れる巨大なその建物を見上げた。
「ああ、錬金術研究所は大総統府直轄だ。上層部を揺するきっかけができたな」
ロイは僅かに口端を吊り上げるとすぐに車の中に戻ろうとする。
「よし、逃げ込む先を突き止められたら十分な収穫だ。引くぞ」
「げはははははは!!」
「あ・・・・・こら!!」
だがハボックの制止も聞かず、バリーは突然一人で飛び出していった。
「あの野郎完全に自分を見失ってやがる!!」
正面門を強行突破したバリーは既に中で派手に暴れているらしい。聞こえてくる悲鳴と破壊音にどうやら引くに引けなくなってしまったようだ。
「・・・・・・・・・好都合だ」
「へ?」
だがロイは慌てる事すらせずサラリとそう言ってのける。
”害をもって利と成す”彼は言葉通りの行動に出る事にした。
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.31
場面転換が多いですが、まあ、それはさておき。
ついにやってしまったロイと嬢の合体技(笑)
ありえないだろとか突っ込んじゃいけません!なんたってデタラメ人間の万国ビックリショーですから!!ありえないなんて事はありえない@グリード。アニメのほうでもアームストロング少佐と使ってましたし(爆)
中尉の出番が大幅に削減されてますが、一応これにも意味があります。本当は早く嬢との共闘シーン書きたいんですがね・・・・
さて次回第三研究所突入、第3部も大詰めでいよいよ物語は核心に迫ります。