「うは・・・すげーな、こりゃ・・・・」

未だ煙の立ち上る爆発の痕を見て憲兵の一人が思わず呟いた。

「ああ、大佐のあれ見るの初めてか」

意識してではなくその呟きが耳に入ってきたハボックは、ライターを取り出しながら振向いた。

「あ・・・ハボック少尉」

思わぬ回答者に憲兵は慌てて敬礼をする。

「いったいどうやったら、あんなことが出来るんですか!?」

「大佐の手袋は発火布っつー特殊なのでできててよ、強く摩擦すると火花を発する」

ハボックは説明しながらライターのふたを指先で弾く。

「あとは空気中の酸素濃度を可燃物の周りで調整してやれば・・・・」

そこで一度言葉を切って、ライターの着火ネジを回した。オレンジ色の火がボッと煙草の先端を焦がす。

「”ボン!”だそうだ」

「理屈はわかりますけど、そんな・・・・・」

憲兵の声音は”納得できない”と言わんばかりであった。

「それをやってのけるのが錬金術師ってやつよ」

煙草の先端からゆるゆると立ち上る煙を興味なさ気に目で追いながら、ハボックは視線を移した。その先には話題に上っているロイと何か話しているらしいとエドワード。

「ちなみに大佐の隣にいるプラチナブロンドの・・・・少佐は知ってるな?彼女と、その隣のちっこいのも国家錬金術師だぞ」

「え!!じゃあ今回犯人全員を取り押さえたのって・・・・・」

憲兵達は、本人が聞いたら烈火のごとく怒りそうな”ちっこいの”という言葉で表現された人物、エドワードに視線を向けた。

「信じられんな・・・・・」

「ああ・・・」

”人間じゃねえよ”と呟く彼らの額には冷たい汗が滲んでいた。










第3話 綴命の錬金術師










「今回の件で一つ貸しができたね、大佐」

黒い革張りの上等なソファーにふんぞり返って、エドワードはにやりと笑った。その隣には同じ造りのソファーに座っているアルフォンスの姿。

「・・・・・君に借りをつくるのは気色が悪い」

二人の向かいでは丈夫そうなデスクの上に腕を組んだロイが、文字通り苦い笑いを浮かべていた。

三人がいるのは作戦本部などが設けられる司令室のさらに奥、執務室とは名ばかりの早い話がロイの私室である。

ロイの目論見どおり、異例のスピード解決を見せた先のトレインジャック事件。
一騒動あったものの犯人グループの護送作業も終了し、現場での作業は憲兵達だけでもまかり通る事後処理だけになった。ならばわざわざ大佐クラスの軍人が現場指揮をとる必要も無いということで、必要最低限の人員をのこして彼らは早々に撤退してきたのであった。

そして現在にいたる。


「いいだろう、何が望みだね」

ロイは彼にしては珍しい、演技ではない本気のため息をついた。

「さっすが、話が早いね」

エドワードは口端を吊り上げた笑みから一転、にっと少年らしい快活な笑顔になる。

「この近辺で生体練成に詳しい図書館か、錬金術師を紹介してくれないかな?」

「今すぐかい?せっかちだな、まったく」

やれやれとロイは立ち上がるとデスクの右側にある書棚に向かう。

「オレたちは一日も早くもとに戻りたいの!」

「久しぶりに会ったんだから、お茶の一杯くらいゆっくり付き合いたまえよ」

「・・・野郎と茶ぁ飲んで何が楽しいんだよ・・・・」

冗談とも本気ともつかないロイの言葉にエドワードは毒づく。

「ええと、たしか・・・・」

しかしロイはまるで聞いていないかのように大量のファイルが並ぶ書棚を探る。その後姿を何とはなしに眺めながらエドワードは呟いた。

「そういえばさー、さっき駅にいた・・・・」

少佐のことかね?・・・ああこれだ」

目的のファイルを見つけるとロイはデスクまで戻る。

「彼女ならいないぞ?私の代わりに現場に残ってもらった。まあ、もうじき戻ってくるだろうが・・・・・」

「・・・・・なんだよ?」

ロイは思わせぶりに言葉を切るとエドワードに企んだような笑顔を向けた。この男がこういう顔をするときはどうせロクなことを考えている時ではない、とエドワードは思う。

「残念だったな、鋼の」

「・・・・何がだよ」

ほらみろやっぱりロクなことを考えていないとロイを睨む。

「まあ、確かに少佐は美人だからな。人当たりもいいから司令部中の男共が狙っているのも事実だが・・・・年齢的には君と三つしか違わないし、何なら私から彼女に・・・・」

「だから何の話だよ!!ってか人の話を聞けっ!!」

「兄さん机の上に乗っちゃ駄目だよ」

話を勝手に進めるロイにエドワードは思わず机に乗り出そうとするが、アルフォンスがやんわりとなだめる。

「おや、”あの時”君もまんざらじゃなさそうだったが?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

”あの時”という言葉にエドワードは真っ赤になってそっぽを向いた。”あの時”というのはもちろんが彼を抱きしめたときのことだ。

(・・・・そりゃ、女の人にあんなことされたの初めてだったから、ちょっとドキドキしたけどさ・・・・・)

そう思ったが、そんなことを正直に言えば、目の前でにやつくこのいけ好かない男の思う壺である。


「さて、冗談はこれくらいにするとして、少佐がどうかしたか?」

(本当に冗談なのかなー)

と、ようやくおとなしくなった兄の体を離してアルフォンスは密かに思う。

「ああ・・・・三つしか違わないって、相当若いよな?いつ国家資格を?」

「12歳で資格をとった最年少国家錬金術師の君が言うことかね・・・彼女が資格をとったのは昨年だ、18になったばかりの頃だそうだ・・・・それがどうかしたのかね?」

「いや・・・・俺、国家錬金術師で女の人って見たこと無かったから。そんな年齢で資格取るなんて何かよっぽどの理由があったのかと思ってさ・・・」

「・・・兄さん」

エドワードの言うとおり、確かに女性の国家錬金術師は少ない。
数々の特権と引き合えに”軍の狗”とののしられ命令があれば人の命を奪わなくてはならないという立場は、女性にとってはかなりの苦痛だろう。ましてや、自分と同じように若いうちからそんな資格をとるということは何か事情があるのかもしれない。彼らと同じように。

「・・・・それは私には分からないな。機会があれば彼女に直接聞いてみるといい」

「・・・ああ、そうだな」

「ところで・・・本題に入っていいかな?」

「あっ・・!そうだった」

元はロイのせいで話の論点が大分ずれてしまったが、ようやくそれに気づく。

「”遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為適合成”−つまりキメラ練成の研究者が市内に住んでいる」

「・・・この人が?」

ロイがデスクの上においた一枚の書類を覗き込むと、そこにはいささか陰鬱な印象を受ける中年男性の写真が貼り付けてあった。

「”綴命の錬金術師”ショウ・タッカー。詳しい説明は車の中でにしよう」








「彼は二年前、人語を使うキメラの練成に成功して国家錬金術師の資格を取った人物だ」

「人語を使うって・・・・・人の言葉をしゃべるの?キメラが!?」

それまで車の後方に過ぎ去っていく景色をなんとはなしに眺めていたエドワードは目を見開く。

「そのようだね。私は当時の担当じゃないから実物は見ていないのだが、人の言うことを理解し、そしてしゃべったそうだよ」

手元の書類に目を落とすロイの表情が険しくなる。

「ただ一言”死にたい”と」

「・・・・・・・・」

エドワードは思わず息を飲んだ。

「その後エサも食べずに死んだそうだ・・・・まあ、とにかくどんな人物か会ってみる事だね」

そう言ってロイが窓の外に目をやると、そこには大きな屋敷が見えていた。



「うわ・・・・でっけー家」

車から降りたエドワードは思わず辺りを見回す。国家錬金術師の私邸というのは初めて見るがその広さに圧倒される。
先に玄関前に立って呼び鈴を鳴らすロイに追いつこうと足を進めると突然後ろの垣根から物音がした。

「ん?」

するとそこには一頭の大型犬が今まさにエドワードに飛びかかろうとしていた。

「・・っふんぎゃああああああああっ!!」

予測不能な事態に反応の遅れたエドワードは哀れ、見事に大型犬に押しつぶされた。

「こら、だめだよアレキサンダー」

何処からとも無く聞こえてきたあどけない声に、大型犬は嬉しそうに尻尾を振って顔を上げた。もちろん未だエドワードを押しつぶしたままである。

「わぁ、お客さまいっぱいだねお父さん!」

声の主は今しがた玄関の扉を開いた幼い少女、ニーナであった。

「ニーナだめだよ、犬はつないでおかなくちゃ」

次いで焦ったような男の声が続く。写真とたかわず一見陰鬱そうなその顔は目的の人物ショウ・タッカーである。





「・・・いや申し訳ない、妻に逃げられてから家の中もこの有り様で・・・・」

エドワード達三人は応接間に案内された。だが、果たしてここを応接間と言っていいものだろうか。

床には荷物や研究書が無造作に積み上げられ、その上に積もった埃が全く掃除されていないという事実を物語っている。部屋の中はどこか薄暗く、天井の所々にはくもの巣。そういえば庭の草木もお世辞にも手入れされているとは言えない状態で,一部は雑草が伸び放題であった。

「あらためて初めましてエドワード君。綴命の錬金術師、ショウ・タッカーです」

人数分の紅茶を注ぎ終わるとタッカーもソファーに腰掛ける。軽く自己紹介をする表情は神経質そうな外見に似合わず、柔和な笑顔であった。

「彼は生体の練成に興味があってね。是非タッカー氏の研究を拝見したいと」

向かいに座ったロイがエドワードの代わりに説明する。

「ええ、かまいませんよ」

タッカーはエドワードの方に向き直る。

「でもね、人の手の内を見たいというのなら君の手の内も明かしてもらわないとね。それが錬金術師というものだろう」

そう話すタッカーの表情は先ほどの柔和な物とは違い、貪欲なほどに探究心をたたえた科学者の顔であった。

「なぜ生体の練成に興味を?」

「・・・・・・」

エドワードの表情がわずかに曇る。

「あ、いや彼は・・・・」

「大佐」

それに気づいたロイがとっさに何か言おうとするがエドワードは右手でそれを制した。そしておもむろに自分の上着のとめ具に手をかける。

「タッカーさんの言うことももっともだ」

「・・・・・・・なんと・・・・・」

上着を脱ぎ終えたエドワードの体を目の前に、タッカーは驚愕した。
黒のノンスリーブから伸びる腕はいかにも15歳の少年といった感じの細くもしっかりとした筋肉がついている。しかしその右肩からは人の物ならざる鋼の機械鎧(オートメイル)が冷たい光を放っていた。

「それで”鋼の錬金術師”と」

そしてエドワードは自分たちが背負った罪を、重い口にのせた。





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.3

ヒロイン名前だけしか出てなくてすみません(汗)
たぶんこの話読んでる方は原作もしくはアニメを見ている方がほとんどでしょうからここらへんのくだりはすっとばしてもいいのかもしれませんが・・・・それだとあまりにも内容的に薄くなりそうなので・・・・;次からはちゃんと再登場させます(苦笑)今回は微妙にエド夢ちっく?な感じですが管理人の中でエドは純朴少年のようです(笑)そしてシリアスとか言ってたくせに前半はばっちりギャグでしたね(遠い目)
さて時間軸的には単行本二巻に突入しましたが、元の台詞があるシーンを書くのは面白い反面難しいですね;精進したいと思います。