乗客名簿の確認を終えたロイの対応は早い物であった。
「フュリー曹長はこのまま通信管制を続けろ」
「あ、はい!」
「ファルマン准尉、ブレダ少尉、司令部に残って”青の団”の過去の事件歴を洗いなおせ」
「了解」
「うぃーっす!」
黒いコートを羽織りながら的確な指示を出していく。
「ホークアイ中尉と少佐は私と来い。ハボック少尉、車をまわせ現場へ向かうぞ!!」
「はっ!」
「はい!」
「イェッサー!」
予想外の乗客の存在で、どこか先ほどまでの緊張感とは違った雰囲気が室内に満ちていた。
第2話 軍の狗と狗
通常、今回のトレインジャックの例に代表されるように人質を伴う事件というものは、大抵の場合犯人グループの説得に膨大な時間を費やすことが多い。
また精神的に追い詰められた人間というのは、自暴自棄になって何を仕出かすか分からないので、最悪の事態に備え救護班や強行突入班といった非常要員も常に待機していなければならない。
もっとも軍が強行突入にいたるまでの事件などは滅多におきないが、それでも事件解決までの長時間、現場には一触即発の緊迫した空気が流れることになる。
「ーと言うのが一般的な見解なんでしょうが・・・・」
「なーんか俺らあんまやることなさそうっすね」
目の前に広がる光景を前にとハボックは苦笑した。
彼らが現場である駅に到着した頃にはすでに〇四八四〇便は到着しており、先に駆けつけていた憲兵達が乗客の保護と車内でのされていた犯人達をあらかた拘束し終わっていた。
「だから言っただろう、早く帰れそうだと」
これで今夜のデートに間に合うなとロイは付け足す。
人質に取られたのが軍の高官であるということに配慮して、あらかじめ報道規制をしいたためマスコミ関係者は少ない。解放された乗客たちも事情聴取に協力する一部の者を除いてそのほとんどが帰路についており、後は少々の野次馬がいる他は駅のホームにいるのは青い軍服の軍人と憲兵だけだ。
そんな中、いち早く彼らを見つけた憲兵の一人が慌てて駆け寄ってくる。
「ご苦労様です!!」
「ああ、状況はどうなっている?」
「はっ!乗客全員の無事を確認いたしました、現在犯人グループの護送準備中であります!!」
まだ20半ばにも満たない若い憲兵はどこか緊張した声音ででそう告げる。相手であるロイ自信も30に届かないがそこはそれ、威圧感の違いだろう。
「そうか、ご苦労。仕事に戻っていいぞ」
「は!失礼いたします!!」
そんな雰囲気を読み取ってかロイは軽く手を上げると憲兵に別れを告げた。
「では私も向こうを手伝います」
走り去っていく憲兵の背中を目で追いながらは言った。
「そうだな、では頼む。ハボック少尉も一緒に行ってくれ」
「へい」
ホームの端になんとはなしに腰掛けて、憲兵達のやり取りを眺めている二人組みがいた。いや正確に二人組みというかは見る人物によるかもしれない。
一人はやや長めの金髪を三つ編みにし、同じ色の瞳を不機嫌そうに細める小柄な少年。
もう一人はゆうに二メートルはあろうかという青灰色の鎧をまとった人物。
この一見奇妙な二人組が、今回のトレインジャック解決の一番の功労者であり、鋼の錬金術師の名を馳せるエルリック兄弟その人であった。その二つ名と出で立ちのせいで鎧の人物の方が兄と思われがちだが、実は彼は弟のアルフォンスで、金髪の少年の方が兄エドワードである。
いつものこととはいえ、事情聴取にくる憲兵達がことごとく間違える物だからエドワードの不機嫌は最高潮で、先ほどから口をむっつりと結んだまま彼は押し黙っていた。
「や、鋼の」
そんな所に、彼の不機嫌に拍車をかける声が聞こえた。毎度毎度いっそ清清しいほどに嫌味なその声の主を間違えるはずもない。嫌々ながらも振向けばそこには予想通り、ホークアイと共にロイが立っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「あれ、大佐こんにちは」
何も反応しようとしないエドワードに代わってアルフォンスが挨拶した。
「なんだね、その嫌そうな顔は」
「くあ〜〜〜〜〜〜〜っ!!大佐の管轄なら放っときゃよかった!!」
「相変わらずつれないねぇ」
(わかってて兄さんの神経逆なでするんだもんなー・・・)
確信犯のロイの言葉に額を押さえて悔しがるエドワード。そんな光景はもう見慣れているのでアルフォンスはあえて介入しようとはしない。
「・・・・っと」
ロイはふとエドワードの右手に目をとめる。
「まだ元に戻れてはいないんだね」
そこにあるのは生身ではなく鈍く光る鋼の機械鎧であった。
「文献とか調べてるけどなかなかね・・・・今は東部の街をシラミつぶしに探し歩いてんだけど、いい方法はまだ見つからないな」
言いながらエドワードは確かめるように顔の前で右手を握る。ギシッという生身ではありえない音が小さく鳴った。
「噂は聞いてるよ。あちこちで色々とやらかしてるそうじゃないか」
「・・・・げ、相変わらず地獄耳だな」
「君の行動が派手なだけだろう?」
顔をしかめるエドワードと対照的にロイはフッと笑うと呆れたように片手を持上げた。
「まあ、こちらとしては君のおかげで楽が出来て大変結構だがね。私に面倒をかけない程度にがんばってくれたまえよ」
「・・・・て・・・!」
「うわぁ!!!」
「貴様・・・・ぐあっ!!」
あんまりと言えばあんまりなロイの言い草に、何か言い返してやろうとエドワードが口を開いた瞬間、突然男の悲鳴が上がった。
一斉にそちらを見やれば今まさに護送されようとしていたトレインジャックの首謀者、エドワードによってのされたアイパッチの男が血走った目でこちらを見ていた。
「うわ・・・仕込みナイフ・・・・」
切断された機械鎧(に仕込まれたナイフで縄を切り、憲兵を切りつけたようだ。その目にすでに理性はなくただ怒りの矛先を向ける獲物を探す猛獣のようであった。
「大佐、お下がりくだ・・・」
「これでいい」
非常事態を察知して素早く愛銃を構えるホークアイを片手で制して、ロイはポケットから右手を取り出す。その手には白い手袋がはめられていた。中央には深紅の練成陣。その一言で悟ったホークアイは銃を下ろして一歩下がる。
「おおおおおおおおおおっ!!!」
ロイを標的に定めてアイパッチの男が猛然と向かってくる。しかしロイは一歩も動くことなく右腕だけを上げると指先に力をこめた。
パキンという小気味良い音を立ててその指先から赤い火花が飛び散る。
「!!」
自分に向かってくる火花に男が気づいた時にはもう遅く、次の瞬間火花は膨れ上がり爆発した。ゴオっと熱風と焔が吹き上がりロイの前髪をなぶる。
「がああああああああああああっ!!」
爆発の直撃を受けて吹き飛ばされた男は体から煙を上げながら地面に叩きつけられる。そして何が起こったかもわからないまま再び憲兵に取り押さえられた。その目は驚愕に見開かれている。
「手加減しておいた」
その頭上で声がする。
「まだ逆らうというなら次はケシ炭にするが?」
見上げればそこには余裕に満ちた男の顔。
「ど畜生め・・・・てめえ何者だ!!」
「ロイ・マスタング、地位は大佐だ。そしてもうひとつ」
この期に及んで悪態をつけるだけの根性は賞賛に値するなと、ロイは口の端を吊り上げた。心身共に敗北を悟った男は悔しさに顔をしかめる。
「焔の錬金術師だ。覚えておきたまえ」
「・・・と今のは・・・・」
「大佐ですね・・・・ああ、すみません、では後をよろしくお願いします」
憲兵と共に状況確認やその他雑多な処理の手伝いをしていたハボックとは、突然起こった爆発音に何があったかを悟る。
「は!ご協力ありがとうございます、少佐、ハボック少尉!」
「いえ、お疲れ様です」
敬礼する憲兵達に軽く笑顔を返しては踵を返す。
「残念、また練成する瞬間を見れませんでしたね」
「あれ、見たことなかったんっスか?」
「いえ、何回かはありますが・・・錬金術師は科学者ですから、常に探究心と好奇心がついてまわるんですよ」
困った物ですねと呟きながらロイ達の元へ向かう。
「そういや俺、少佐の錬金術って見たことないんですけど、どんななんスか?」
「うーん・・・・そうですね」
そこではなぜか立ち止まる。
「ハボック少尉は錬金術の原則をご存知ですか?」
「へ・・・?あー・・・と等価交換とか言いましたっけ?」
「正解です。”何かを得るためには同等の代価が必要になる”つまり・・・」
言葉を切ってハボックの方を振向いたは彼に向き合うと、その唇に触れるか触れないかの位置に人差し指を突き出す。その表情には悪戯っぽい笑顔がたたえられている。
「し・・・・少佐!?」
予想外の展開でいきなり急接近されてハボックは柄にもなく取り乱す。
当たり前と言えば当たり前だった。司令部の例に漏れず自分も彼女に憧れる一人であり、その本人の顔がこんなにも近くにあるのだから。しかもその身長差のせいで本人は意識していないのだろうが上目遣いというトドメつき。思わずくわえていた煙草を落としてしまった。
「相手の手の内を知りたいのなら、まずは自分の手の内を明かすこと」
「お・・・・俺の手の内・・・っすか・・・?でも俺錬金術師じゃないっすよ・・・?」
「知ってますよ」
見る見るうちに赤くなっていくハボックがおかしくてはクスリと笑うと目を細めた。その表情がさらに拍車をかけていることを知ってか知らずか。
「だから、そういうことです」
「・・・・へ?」
そこまで言うとは突然ハボックから離れた。状況が飲み込めないハボックにくすくすと笑う。
「・・・・・あー・・・・要約するとつまりは教えないって事っすか?」
「そういうことです。同じ軍人といえど錬金術の手法は簡単に教えられません」
そう言っては先ほどまでハボックに突きつけていた人差し指を、桜色の自分の唇に当てて軽くウィンクすると”企業秘密です”と呟いた。
「・・と、あんまりしゃべってもいられませんね。煙草ちゃんと拾っておいてくださいね?」
にこりと極上の笑顔だけを残しては去っていった。
「・・・・・・・やべぇ・・・・」
後に取り残されたハボックはポツリと呟くと手の甲で口元を覆った。直接触れられたわけでもないのに妙に唇が熱い気がする。
(・・・可愛すぎる・・・ってか俺もしかして遊ばれた?)
もしかして司令部での振る舞いは全部演技でこっちが彼女の素なんじゃなかろうか、という疑問を抱いたまま、ハボックは数分の間その場から動けなかったとか。
「大佐、遅くなりました」
「いやご苦労だったな」
何事もなかったように一人歩いてきたは敬礼をする。腕を下ろしながらふとロイの横を見ればそこには金髪の少年と大きな鎧。
「あ・・・彼らがもしかして・・・!!」
「ああ、鋼の錬金術師だ」
期待に満ちた目でロイに尋ねれば、希望通りの答えが返っってきた。
その答えが終わるのもまたずはエドワードに近づくと軽く前かがみになった。彼女自身それほど身長が高いわけでもないがそれでもエドワードと話すにはいささか身長差が邪魔になる。
「君がエドワード・エルリック君?」
「ああ、あんたは?見たことないけど・・・」
真っ直ぐな金色の両目がを見据える。
「・・・・か・・・・・・」
「・・・・か?」
エドワードが怪訝な顔する。
「可愛い!!」
「うわぁっ!?」
だがしかし、次の瞬間聞き返すまもなくの胸に抱きしめられていた。百戦錬磨の鋼の錬金術師もさすがにこれは予想外だったらしく、顔を真っ赤にしながら目を瞬かせている。その光景に驚いたのは周りも同じでアルフォンスとホークアイが唖然としている。
そんななかで一人、ロイはこらえきれずにくっくっと低い笑いを漏らした。
「っくくっ・・・可愛いか。よかったじゃないか鋼の」
その一言にエドワードはようやくはっとする。
「よ・・・・よくねぇっ!!ってかなんとかしろ!!アンタの部下だろ!?」
流石に女性相手に乱暴に引き剥がすわけにも行かず、いまだにしっかりと抱きとめているの腕の中でじたばたともがく。
「っく・・・し・・・少佐・・・少佐・・・その辺にしておけ・・・っく」
普段のエドワードからは想像も出来ない取り乱しようにロイは腹筋の辺りを押さえた。
「・・・はっ!!・・・・ご・・・・ごめんなさい!!」
自分のおかれている状況に気づいたのかは慌ててエドワードを解放する。よく見れば彼は耳まで真っ赤になっていた。
「ごめんなさい・・・私にも君くらいの弟がいるものだから・・・つい」
「・・・も・・・・もう・・・・別にいいよ・・・」
至近距離で碧の瞳に見つめられてエドワードは目をそらした。心なしかその顔がさらに赤くなっている。
「どうした鋼の?少佐に惚れたか?」
「な・・・・誰が!?」
その様子がおかしくてからかえば、エドワードはすぐにロイに噛み付いてきた。
「大佐、話が進みません」
一部始終を黙って見ていたホークアイがようやく口を開く。
「はは、中尉の言うとおりだな。鋼の、彼女は光耀の錬金術師、・少佐だ。少し前から東方司令部に勤めている」
「・・・・へー。じゃあ、あんたも国家錬金術師なんだ」
頷きながらエドワードは改めての方を見た。
「先ほどは失礼いたしました」
は苦笑交じりに敬礼する。
「”はじめまして”かな?鋼の錬金術師君」
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.2
これってハボ夢?いえ一応逆ハー夢のはずなんですが(くどいわ)
ハボックとの描写が多いのは彼が動かしやすいキャラだからです(まあ、その結果大分かわいそうなことになってますが・苦笑)今回のポイントはシーンごとに違うヒロインの性格。さてはたしてどれが彼女の本性なんでしょう(笑)
なんだかショタコン疑惑が浮上しそうですが違います(苦笑)実はただ単に管理人の願望が入っただけです(おい)
エドってなんかこうぎゅってしたくなりません?なりませんか・・・そうですか・・・(逝ってしまえ)
そしてシリアスなんだかギャグなんだか分からなくなってますが、次話からはシリアスに戻ります・・・・たぶん(あやしい)
どうでもいいですが今回の副題『軍の狗と狗』より『軍の狗、狗に会う』のが良かった気が・・・・;