”悪党とは等価交換の必要なし”
デビルズネストの地下室に乗り込んできたエドワードがそう宣言した後、その場の全員が唖然としている中一番最初に我に返ったのはドルチェットであった。
「・・・・・・・・こいつバカだわ」
そう言って愛刀に手をかける。
「また力ずくかよ」
「殺すなよ」
「へいへい」
グリードが念を押すと、ドルチェットはエドワードに向かって構えをとった。
「でも骨の一本や二本はご愛嬌です・・・・・ぜ!!」
言うと同時に鞘から抜き放った刀を一閃。しかし、すでにその場にエドワードの姿は無い。
「!!」
「遅ぇな、どっかの死刑囚よりぜんぜん遅ぇ」
反射的に上を見上げれば、跳び上がったエドワードが今まさにドルチェットに向かって拳を振り下ろさんとしていた。
ゴッと鈍い音をたて左の拳をドルチェットの顎に叩き込み、エドワードが着地する。僅かに遅れて地に伏したドルチェットは既に気絶していた。
だがエドワードはそんなことには目もくれず、すぐさま両手の手袋を外し、機械鎧を刃に練成した。
「次!」
第28話 悪魔の巣穴
すでに臨戦態勢を通り過ぎたエドワードに、グリードは目を細めた。
「ロア」
「はっ」
「鎧クン連れてけ。バラして解析する」
「はっ」
ロアがアルフォンスを担ぎ上げる。
「ドルチェットも連れてって手当てしてやれよ」
「「なっ・・・・」」
強硬手段に移った彼らに、とエドワードは同時に反応を示した。
「させない!!」
「させるか!!」
叫んだ二人がロアを追おうと動いたが、グリードの反応の方が僅かに早かった。
彼は瞬時に黒く硬化した左手でエドワードの刃を受け、右手での腕を掴み上げる。
「!」
ガキィンというまるで金属同士がぶつかった様な音に、エドワードは目を見開いて一瞬動きが止まった。
「ききわけの無ぇガキには仕置きが必要だよな?」
にっと笑ったグリードの意図に気付いたは、反射的に彼に腕をつかまれたまま声を上げた。
「エド!!」
刹那、グリードの腕がエドワードに向かって振り下ろされる。刃を弾かれた勢いにのって、身を低くしたエドワードはそのまま手をついて後ろに跳び退く。
「ちっ・・・」
しかし僅かにかすったグリードの爪が、その頬を浅く裂いた。着地したエドワードは忌々しそうに服の袖で血を拭う。
「・・このっ!」
「おおっと、そうはいかねぇ!」
グリードに出来た一瞬の隙を狙って、が思い切り足を蹴り上げたがあえなく払われ、彼女はそのまま身をひねって後ろに跳ぶ。強引に振りほどいた手首がズキリと痛んだ。
「お前は下がってろよ、女をいたぶるのは趣味じゃねぇって言ったろ?」
「私も、あなたの趣味なんかどうでもいいって言ったはずよ」
付き合っていられるかとばかりに言い捨てるとは両手を合わせて床に手をついた。練成したのは鉄製のナイフだ。最も生半可な武器類が、グリードに通用しない事など百も承知だ。
はちらりとエドワードに目をやる。するとその視線に気付いた彼はこくりと頷いた。どうやらこの一瞬で役割分担は決まったようだ。地下室内に出口は一つ、そしてその前にはグリードがいる。ならば二人のやることは、さほど多くなかった。時間が稼げればそれでいい。
まず先にがグリードに密接する。俊敏な動きで振り下ろされる二本のナイフの動きに、ついにあきらめたかグリードは苦笑しながらも硬化した両腕で弾き返す。
耳障りな金属音が鳴ること数合目、練成反応の光に気付いたはきゅっと踵を鳴らして、すぐさま間合いを開ける。
「!」
グリードが上を見上げると、床に練成した柱をを踏み切り台にしたエドワードが彼の真上から刃を振り下ろす。
「無駄無駄ぁ!!」
だが、交差した腕がまたも難なく弾き返す。
「その鋼の剣じゃ傷ひとつつけられねぇよ!!」
「ならこんなのどう?」
余裕のグリードにが床に手をつくと、彼に向かって巨大なとげがいくつも走る。
「ハッハァ!!」
それは彼の体にあったった瞬間砕ける。しかしその間にエドワードはその一つに手を触れていた。練成の第二段階、分解の状態で止められたとげが粉々に砕け散ってグリードの視界を遮り、一瞬その足を止めた。
「!今だ、アルを頼む!!」
「了解!」
この絶好の機会に、遮る者がいなくなった出口にが走る。
「そうは・・・・おっ!?」
させるかとばかりにグリードが手をのばしたが、その首をエドワードの両足が捕らえた。体を捻る勢いで、その脳天を床に叩きつける。衝撃にグリードの頭部から血が吹き出した。
「脳天ガラ空き!・・・・おわ!!」
してやったりとエドワードが笑ったのもつかの間、微弱な風を感じて反射的に身を反らせば、今いた場所をグリードの腕が突っ切った。
「っ・・・」
爪が腹部を裂き、エドワードはその部分を強く押さえた。
「おー痛ぇ・・・普通の人間だったら病院送りだぞ」
その間にもグリードはパキパキと音を立てながら再生して身を起こす。
「ぜんぜん普通じゃないのな」
「いやぁ体の構造や構成物質は普通なんだけどな」
グリードは首の後ろに手を当てて、骨をごきごきと鳴らす。
「ちょいと再生能力が過ぎるのと、”最強の盾”があるだけだ」
そしてぺっと口内に残っていた血を吐き出した。
「まさか不死身・・・・とかファンタジーな事言わないよな?」
「おお!!なれたらいいねぇ不死身!!」
エドワードにいかにも胡散臭そうな視線を向けられて、グリードはゲラゲラと笑った。
「わかったろ?おまえは俺に勝てねぇ。この盾に傷ひとつ付ける事もできねぇ」
事実、グリードが無傷なのに対し、エドワードは既に数箇所を負傷し、機械鎧(の刃も刃こぼれをおこしていた。
「取り引きした方が利口だぜ」
だが、エドワードはきつく眉を寄せたままグリードをにらみつけた。
「・・・・・・・・・おまえあれだな、自分が傷だらけになるのは平気だが・・・身内がちょっとでも傷付くのには耐えられなくて冷静さを失う!」
その様子にグリードは嘆息した。
「愚かだな。そうやって激情に任せて貴重な情報も弟も失うか?」
「・・・もうが行ってる。てめぇを倒したらオレも行くさ」
エドワードは強く足を突いて立ち上がった。
「無限の再生能力じゃないんだろ?生身の部分をボコリ続けりゃ・・・」
「がっはっはっはっは!!悪かったなぁ手抜きしちあって」
するとグリードは大笑いして上着を脱ぎ捨てた。その直後から、這い上がるように露出した腕が黒く硬化していく。
「ちょっとブ男になるんで、あんま見せたくねぇんだよこれ」
目の前で異形に変わっていくグリードに、さすがのエドワードも顔を引きつらせた。
「言っただろ?おまえは俺に傷ひとつ付ける事ができねぇ」
全身硬化し終えたグリードの姿は、すでに人間のそれとは遠くかけ離れていた。
薄暗い下水道の中に、カツカツとブーツの踵が奏でる音が反響する。
汚れた水路の脇にある細いスペースをは先ほどから走り続けていた。デビルズネストの地下室から隠し通路になっているこの場所は、予想以上に複雑に入り組んでいるらしい。そのため、見取り図も無い今の彼女は勘に任せて行動するしかなかった。
(まだそんなに離れてないとは思うけど・・・)
ロアがアルフォンスを連れ去ってからまださほど時間はたっていない。いくら彼が怪力の持ち主でもアルフォンスの鎧の体を担いでいればそこまで遠くにはいけないはずだ。
「!」
通気孔の前を通過したは、不意に何かの物音に気付いて足を止めた。
「・・・この音・・・銃声?」
通気孔から僅かに聞こえてくるのは間違いなく銃の発砲音だ。しかも一発や二発ではない、複数の銃声が断続的に響いてくる。そして、さらに耳を澄ませば大勢の人間が走り回っているような足音も聞き取る事が出来た。
(一体何が・・・?)
通気孔の繋がる先は当然この下水道の真上、デビルズネストの地上階に当たる場所だ。
「・・・・・・・」
は数秒間立ち止まった後、またすぐに走り出した。地上階の状況は分からないが、とりあえず今はアルフォンスに追いつくことが先決だ。
「中佐ではないか」
だが、走り出して間もなく、右に折れた通路の奥からあらわれた人物には度肝を抜かれ、私服姿のままその場に敬礼した。
「だ・・・大総統閣下!!」
「そのままでよい」
「は」
ブラッドレイがすっと手を上げたのを見ては敬礼を下ろした。
「閣下、失礼ながら何故このような場所に?」
「ああ、南部戦線の視察に来ていたら南方司令部で鋼の錬金術師に会ってな、彼の師匠を勧誘に来たらこの騒ぎだ。救出にきたのだよ」
「そうでありましたか」
は体面上何も言わずに頷いた。だが、はっきり言ってブラッドレイの言葉は全く腑落ちていない。
「君も特務中災難であったな。怪我は無いかね?」
「は、大丈夫であります」
「無事で何よりだ」
ブラッドレイはうむと頷いて笑ってみせた。だがその笑顔に何か底冷えするような物を感じてはゾクリとした。
「どうかしたかね中佐?」
「いえ、申し訳ありません」
ブラッドレイは笑顔のままだが、は心なし顔を引きつらせて慌てて否定した。
「そうかね。では行くとしよう」
「あの・・」
「どうした?鋼の錬金術師なら先ほど保護したぞ。彼の弟を助けに行く途中だったのだろう?一緒に来たまえ」
「は」
歩き出したブラッドレイの後ろにも続いた。
だが、彼女は暑いわけでもないのに汗が滲み出すのを感じた。
(さっきの感じは一体・・・)
ブラッドレイが放つ威圧的なオーラはいつものことだが、先ほど感じ取った雰囲気はそれとは違う。強いて表現するならば、恐怖に近い感覚だった。似たような経験が一瞬脳裏をよぎったが、すぐに頭を振ってその考え振り払った。
(・・・まさかね)
「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ」
アルフォンスは、無理やり這ってでも前へ進もうとしていた。
「逃げようったってそうは・・・・・」
だが、マーテルもマーテルで黙ってはいないい。鎧の中から全力でアルフォンスを押さえつけようとする。
「大人しくしてなさいいいい〜〜〜〜〜」
「い・や・だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
こんな攻防が先ほどからずっと続いていたが、アルフォンスが近付いてきた足音に顔を上げたことでようやく終わりを告げる。
「グリードさん!」
その足音の正体はグリードだった。
「マーテル・・・・と鎧クンも無事か」
マーテルはアルフォンスの頭を上げると中から顔を覗かせた。
「上がさわがしい事になって来て・・・ロアは私達をここに置いて戻りました」
「ああ、ちょいと面倒な事になった。逃げる算段しとけ」
「それは困る」
グリードがそう言ったとき、ちょうど追いついたブラッドレイが言い放った。
「・・・・誰だ?」
ブラッドレイの後ろに佇むはいいとして、彼自身には見覚えが無い。グリードは二人を見比べて怪訝な顔をした。
「大総統・・・なんでここに!?」
「キング・ブラッドレイ!?」
アルフォンスの言葉に、彼の中からマーテルが小さく驚愕の声を上げた。
「へぇ・・・この国で一番エラい方がこんな所に何の用で?」
幾分丁寧になったような口調だが、取ってつけたようなその言葉同様、グリードはブラッドレイを敬う気持ちなど皆無だ。
「君は彼と共に、ここにいたまえ」
「は・・」
するとブラッドレイは、背後のにしか聞こえないくらいの声音でそう告げると前へ踏み出した。
「君、年はいくつだね」
「は?」
突然何の脈絡も無い話をし出したブラッドレイに、グリードは呆気に取られたような顔をした。
「私は今年60になる。年をとると体が思うように動かなくなるな。こんな仕事さっさと終わらせて帰りたいのだよ」
「引退しな、おっさん」
構うことなく近付いて来るブラッドレイに、グリードは小馬鹿にした様子で右手首を硬化させた。だが目の前で立ち止まったブラッドレイがサーベルを持った左腕を振り上げた瞬間、その部分は消失していた。
「・・・・・おっ・・・」
その一瞬の出来事に、何が起こったのかを理解できずグリードは自分の腕に目をやった。そこにはあるべきはずの下半分が無い。
「「!!」」
見ていたとアルフォンスは息を呑む。その間にもブラッドレイは再びサーベルを構えていた。
「おいおいおい!!なんつーおっさんだ!!」
ようやく相手が只者でない事を理解したグリードは歯噛みしながら右腕を押さえて後退する。その顔にはすでに余裕は無かった。
「!!」
パキパキと腕が再生し始めるが、それを待たずしてブラッドレイが密接する。
「くおっ!!」
その見た目からか想像できないような速さで繰り出される二本のサーベルにグリードは簡単につかまった。足を腕を額を、次々貫かれて壁に叩きつけられる。さらに追い討ちをかけるべくブラッドレイはその体を蹴り飛ばすと、彼は壁もろとも反対側の通路まで吹っ飛んだ。
「・・・・・大丈夫?アル」
グリードとブラッドレイの姿が見えなくなると、はアルフォンスのほうへ歩み寄った。
「あ、うん。こそ大丈夫?」
「ええ」
は苦笑すると少し体をかがめた。
「とりあえずこの鎖を外さないと」
「待ちなさいよ」
が鎖に手をかけようとすると、アルフォンスの中から声がした。
「マーテルさん」
アルフォンスの声と共に彼の頭がはずれ、マーテルが顔を出した。は少し驚いたが、ようやく納得した。なるほど、アルフォンスが簡単に捕まってしまったわけだ。中から押さえつけられていれば自由には動けない。
「あんたも軍人なの!?」
マーテルの声はまるで唸るようであった。
「・・・そうよ」
が静かに頷くと、マーテルはぎりっと歯を鳴らして彼女を睨み付けた。
「私はね、軍人がこの世で一番嫌いなのよ!私達を実験動物にしたあんた達がね!!なんでアイツが・・・キング・ブラッドレイがこの場に居るのよ!?あんた達はこれ以上私達から何を奪おうって言うのよ?」
マーテルはまるでやり場の無い怒りをに向けているようだった。
「わからない」
「わからないですって、とぼけるんじゃ無いわよ!!」
「マーテルさん、は・・・」
「アル、いいのよ」
マーテル自身、が何の関係も無いのは分かっているだろう。だが、今は怒りの矛先を向ける相手が必要なのだ。何となくそれを察したは、黙って手を上げるとアルフォンスを制した。
「・・・大総統が何を考えているかは私にもわからない」
はすっと身をしゃがみこんで、マーテルと目線を合わせた。
国家錬金術師一人の救出にブラッドレイ自ら出てくる事など、普通に考えておかしい。それが解かっているからこそ、彼の真意が掴めないのだ。
「マーテルさん、軍人があなたを実験動物にした・・・と言ったけど、ではあなたは軍から逃げてきたの?」
「そうよ」
「・・・そう・・・アル」
「うん、そうしてあげて」
と同じ事を考えていたアルフォンスは頷いた。それを聞き届けてからは再び鎧の頭をかぶせる。
「ちょ・・・ちょっと、どういうつもり!?」
すると中からマーテルが声を上げた。
「もう少しだけそこにいて。アルの中に居れば上手くやり過ごせるかもしれないわ」
「・・・・私を逃がそうってワケ?あんた軍側の人間でしょ?敵の私に対して何考えてんのよ!?」
「何も」
は目を伏せた。そう、別に何か考えあっての行動ではない。
ここに来る途中ブラッドレイから聞いたのはエドワードとアルフォンス以外は殲滅すると言う事だった。つまりマーテルを逃がす事は命令違反だ。だが、アルフォンスを攫った事は許せないが、少なくとも自分を睨んだマーテルの目は”悪人”のそれではなかった。だから逃がす、それだけだった。
「・・・・あんたといい、この鎧クンといい・・・・変な奴ばっかりね」
すると呆れたようなマーテルの声が聞こえた。しかし心なしか、彼女の声音が柔らかくなったように思えた。
錬金術でがアルフォンスの鎖を外してからしばし。
ブラッドレイに念を押されているためその場から動く事が出来ないはアルフォンスの横に座っていた。
「闘いの音が止まった・・・・」
先ほどから続いていた激戦の音が突然途絶えた。不意に辺りが静まり返るとアルフォンスは暗い通路の奥に目をやる。
「!」
するとカツっという物音がして、次第にこちらに近付いて来る。
「・・・・誰だ!?」
アルフォンスがあげた誰何の声に答えは無い。代わりに暗闇からぬっとグリードが姿を現した。
「あ」
だが、アルフォンスが何かを言おうとした瞬間、グリードの喉元を鋭利なサーベルが貫き彼はその場に倒れ伏す。
「グリードさ・・・・・」
「ダメだ!!」
「うわぶ!!?」
思わず飛び出しかけたマーテルをアルフォンスは強制的に中に押し込む。
「・・・っこの!開けなさい!!」
「だめだよ!!さっきも言ってたでしょ!出たらあぶない!!」
「出しなさい!!」
「ダメったらダメ!!」
二人が押し問答をしていると、
「ああ、くそ。さっきのところでくたばってりゃ楽に死ねたなぁロア」
そんな声が聞こえた。
ブラッドレイとグリードを含めたその場の全員が声のした方に目を向けると、そこには血まみれになったロアとドルチェットが立っていた。
「まったくツいてねー」
ドルチェットはその場に居たブラッドレイの姿にうんざりとしたようだ。
「尻尾を巻いて逃げてもいいぞドルチェット」
「そうしたいところだが、ご主人様があんなじゃなぁ・・・・いやになるぜ、犬ってのは忠誠心が強くってよぉ」
ドルチェットは軽口を叩きながらも歩いて来ると通り過ぎ際、とアルフォンスに言った。
「・・・・まだ中に居るんだろ?おめーらにこんなこと言うのはルール違反かもしれねーが、そいつ逃がしてやってくれ」
「たのんだぞ」
そしてロアは振り返って僅かに笑んだ。それは死地に赴く戦士の顔であった。そのどこか誇らしげな二人に、は彼らの覚悟を悟る。
「ロア!!・・・・・つ!?」
彼らの声を聞いていたマーテルは居ても立っても居られなくなり、アルフォンスの中から出ようとした。しかしそれに気付いたアルフォンスは全力で頭を押さえる。
「ちょっとジャマしないで!!出しなさい!!」
「いやだ!!」
「あんたとここでやりあっるヒマは無いのよ!!開けろって言ってるの!!」
「ダメだよ!!出ちゃダメだ!!」
「うるさい!!開けなさい!!仲間がやられるのをだまって見てろっての!?」
「出す訳にはいかない!!たのまれたんだ!!二人に!!」
それでもマーテルはあきらめず鎧に手を打ち続けた。
「開けろーーーーー!!!」
「ダメだ!!」
一際大きく叫んだ後、マーテルの声は急激に小さくなる。
「開けてよ・・・・・・・・・!!お願いだから・・・・・・・!!」
縋るようなその声に、それでも頑としてアルフォンスが力を緩める事は無かった。
「ダメだ・・・・出ちゃ・・・・・・ダメだ・・・・・・・!!」
そしてとアルフォンスの見守る中、二人の戦士は水の中に沈んだ。
「おいおいブラッドレイさんよ、どうしてくれんだ俺の部下をこんなにしちまってよ」
ようやく再生を終えたグリードは立ち上がると動かなくなった二人を見下ろした。
「駒に情が移ったか、くだらん」
ブラッドレイの一言はグリードの激情に火をつけるには十分だった。
「情だぁ!?阿呆が!!俺を誰だと思ってんだ!!強欲のグリード様だぞ!?」
怒りに見開いた深紅の瞳は、凶悪なほどにブラッドレイを捕らえた。
「金も女も部下も何もかも俺の所有物なんだよ、みんな俺の物なんだよ!だから俺は俺の所有物を見捨てねぇ!!なんせ欲が深いからなぁ!!」
「強欲!!!ますますくだらん!!!」
だが一言の元に吐き捨てたブラッドレイは四本のサーベルを一瞬でグリードの体に突き刺した。すると突然グリードの動きが止まり彼は倒れた。
「しばらく寝てるがよい」
興味無さそうにそれを一瞥すると、ブラッドレイは水路から上がりアルフォンスたちのほうへ歩いてきた。
「エドワード君の弟だね。ケガは無いかね?手を貸そうか?ん?」
そして彼は今まで様子が嘘の様ににっこりと笑った。その表情にまたは悪寒を感じる。貼り付けたようなそれは先ほどと同じ笑みだ。
「は・・・・はい。大丈夫です」
常であればアルフォンスもそれ感じ取ったのであろう。だが今彼は自分の中に居るマーテルの存在を悟られないようにするのが精一杯でそれに気付く余裕は無かった。
「一人で帰れますから・・・・じゃあ・・・・」
そう言って、なんとかこの場を立ち去ろうとした時だった。
「!」
アルフォンスの腕が、否、正確にはアルフォンスの中に居るマーテルが、ブラッドレイの首をしめ上げた。
「だっ・・・・だめだマーテルさん!!やめるんだ!!」
「ブラッドレイ!!!」
唸るようなその言葉が、全ての憎悪を物語っていた。
「やめ・・・・・」
「アルっ・・・!!」
アルフォンスがなんとか止めようとしたのも虚しく、ブラッドレイは鎧の隙間からサーベルを突き入れた。その瞬間深紅の飛沫が中から溢れ出す。
「っ・・・・!」
は思わず拳を握り唇をかんだ。
だが、それと同時にアルフォンスは自らの血印に飛び散った血飛沫が、あるはずの無い心臓の鼓動を呼び起こすのを感じた。
流れ込んでくる正体不明の膨大な何かに、間もなく彼の意識は途絶えた。
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.28
デビルズネスト編大幅改定です。
改定前に読んで下さった方すみません;;;初めての方はお気になさらず;
修正日:2005/7/23