「ふー、あっちいあっちい」
エドワードはダブリス駅から一歩外に出た瞬間照りつけた太陽に、コートを脱いで肩にかける。
「でも思ったより早く査定終わって助かったな・・・」
歩きながらふと思い出したようにズボンのポケットから銀時計を取り出した。
(・・・今年こそ元の体に戻れるといいなぁ・・・)
「おお美しきかなダブリス!」
そんな事を思っていると、ふいにどこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。
「なかなか良い街ではないか、鋼の錬金術師君!!」
自然にそちらを向けば、派手なアロハシャツに身を包んだキング・ブラッドレイと、こちらは軍服姿のアームストロング。エドワードは反射的にこけていた。
「なっなっ・・・何・・・・・・」
「うん?何って・・・君の師匠とやら似合いに来たのだよ。これお土産、スイカは嫌いかね?」
地面に手をついたままのエドワードにブラッドレイは持参したスイカを手渡す。
「あ、ども・・・・じゃなくて!!」
あまりにも自然な様子にうっかりスイカを受け取ってしまったエドワードは、自分で自分に突っ込みを入れた。なんだか少し既視感を覚える光景である。
「一緒の汽車かよ!!」
「ふっふー、子供一人の後をつけるなど朝飯前!」
怒りの矛先を、アームストロングに向ければ彼は自信満々に腕を組んでみせた。
「これおアームストロング家に代々伝わりし尾行術!!」
「もういや・・・・」
第27話 匹夫の勇
「・・・・さて、約束どおり教えてもらおうかしら」
地下室の扉が閉じられ、イズミの足音も完全に聞こえなくなってしまうと、は腰に手を当ててグリードに向き直った。
「まあそう急かすなって、とりあえず・・・」
「っ・・!」
グリードはつかつかと近づいてくるとの体を引き寄せた。
「もっとよく顔見せろや」
「・・・教えるつもりがないのならアルを連れて強行突破するわよ」
不本意にもグリードの腕の中に収まった状態で、は無表情に彼を見上げた。
「俺は嘘をつかねーのが信条なんでな、約束は守る。けどよ、あれだけ譲歩してやったんだから、これくらいいいだろ?」
「・・・・・」
はぴくりと眉を跳ね上げたが、反論はしなかった。するとそれを了承と取ったか、グリードはの顎をくいっと上向けてその顔を覗き込んだ。
「へぇ、マジで色白いな。女はいくらでも見てきたけどよ、ダントツだなお前」
まるで珍しい玩具を見つけた子供のように、不躾な視線に眺め回されては不快そうに眉を寄せた。
「後はやっぱこの目だな・・・・文句なしのいい女だ。お前、年いくつだ?」
「18」
「おー若ぇな」
は、ほぼ無表情だが、幾分低くなった声がグリードに対する嫌悪の現われだろう。だがグリードも相変わらずのマイペースだ。
「いい加減に離してくれるかしら」
唇が触れそうなほど顔を寄せられて、我慢の限界に達したか、の腕がグリードの硬い胸板を押し返した。
「まあそう怒るなって、確認の意味もあったんだからよ」
無言の怒りがひしひしと伝わってくるに苦笑したグリードは、ようやく彼女を解放して肩を竦めた。
「やっぱりな、思った通りだ。お前からは俺達人造人間と同じ匂いがする」
「豚もも100g、128センズ!」
「イズミさんとおっしゃる方にお会いしたいのですがね」
肉屋に訪れたブラッドレイは、シグを前に笑顔でそう言った。
「聞くところによると、たいそうな錬金術の腕前だとか・・・」
「牛肩切り落とし200センズ!」
しかしシグには全く話に応じる気は無いようだ。
「どうですか国家資格を取ってみませんか」
「牛豚合びき98センズ!!」
「ふー・・・話になりませんな。閣下!ここは我輩におまかせを!」
見かねたアームストロングが二人の間に割って入った。
「ガンコな肉屋の主よ!!見よ国家錬金術師のすばらしさ!!その瞳にとくと刻むがよい!!!」
そして上着を脱ぎ捨てた彼は、自慢の筋肉を美しく見せるようにビシっとポーズをとった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
するとシグはすーっと大きく息を吸って、瞬間的に上半身に力を込めた。隆起した筋肉が、彼の服を弾き飛ばす。
「ぬうッ!!!」
自分の物に負けずとも劣らないその立派な筋肉に、アームストロングは驚愕の声を上げる。どこから地鳴りが聞こえてきそうな勢いで、数秒間両者の間ににらみ合いが続いた。そして。
二人は同時にがっしと手を取り合った。互いに認め合った男達は今ここに、暑苦しくも美しい友情を成立させたのである。
「はあ!?アルが!?」
そんなやり取りが行われている中、店の奥ではエドワードが、帰ってくるなりイズミに聞かされたとんでもない出来事に驚愕していた。
「誘拐ってどういう・・・・・ええーっ!?」
「ちょーっとややこしい事になってねぇ」
「何が目的で!?身代金!?」
「いやアルの魂の情報をよこせと・・・要するにエドを連れて来いって事だよ」
イズミは混乱気味のエドワードを、とりあえず落ち着けと手で制して腕を組んだ。
「どこのどいつだよ、そんなもん知りたがるのは〜〜〜〜〜〜」
「手の甲にウロボロスの入れ墨をしたグリードという男だ。信じられないかもしれないけど人造人間(ってやつらしい」
ウロボロスと言う言葉に、エドワードの脳裏に第五研究所で出会った黒尽くめの二人の姿が思い出された。
「・・・・・うそでしょう?」
「いや、あきらかに普通の人間とは違った」
ありえないと思って聞けば、イズミの表情は至極真面目であった。
「・・はこの事を?」
ふとそこでエドワードは顔を上げた。姿が見えないのは買い物でも頼まれているのだろうと思っていたが、はどこまで知っているのだろうか。ウロボロス絡みとなれば、彼女が大人しくしているとは思えない。
「それがね、あの子もアルと一緒にいるんだよ」
「・・・・・ええっ!?」
予想だにもしない言葉にエドワードはまたも驚愕した。
「な・・・なななんで!?まさかまで攫われ・・・・!?」
「いや、アルを連れ戻すつもりで私と一緒に乗り込んだんだが、そのグリードってやつがあの子の体の秘密かなんかに気付いたみたいでね。止めたんだけど、それを聞くための条件としてあの場に残ったんだよ」
イズミは嘆息する。
「の体の秘密って、あの?」
それは言うまでも無く自身も疑問に思っていた、人体練成をしていないにもかかわらず、何故真理を見れたのかと言う事だろう。
「それに関係する事かもしれないし、違うかもしれないね。ただ、相手が人造人間(なら、人間(の知らない情報を持ってても不思議じゃない」
「じゃあ・・・とりあえずは無事なんですね」
アルフォンスと違って生身のは安否が心配だったが、エドワードは安堵してうなだれる。
「ああ、怪我させられるような事は無いだろうが・・・・」
「何かあるんですか!?」
イズミが言葉を切ったことでエドワードはバッと顔を上げた。
「ああいや・・・グリードがどうやら女好きみたいでね。だからちょっと・・・・そっちのが心配でね」
「・・・・・・女好き・・・」
一瞬いけ好かない黒髪の大佐が脳裏に浮かんでエドワードは頭を振った。なんとなくイズミの言わんとしていることが解かって無意識に拳を握る。そしてエドワードは彼女の手に巻かれた包帯に気付いた。
「師匠(・・・・そいつにやられたんですか?」
「ああこれ?」
イズミは包帯を巻かれたほうの手に目をやった。
「たいしたこと無いよ、予想外の敵だったんで油断しただけ」
イズミは心配するなという風に手を振って見せたが、エドワードはしばし黙り込んだ。彼女の強さを知っているエドワードからすれば、例え小さな傷でも、負わせた相手がどれほどのものなのか大体の想像はつく。
「師匠(オレそいつの所に行って来ます」
「一人でか!?」
「自分達の問題だから、オレ一人で」
エドワードは口を引き結ぶようにして頷く。
「ばかたれ!!あんな危ない奴らの所に一人で行かせられるか!!」
「大丈夫ですよ!!ほら!あっちはオレ達の情報を欲しがってるだけだから!!」
そんな事は許さんと言わんばかりに詰め寄ったイズミに、エドワードは両手をあげて静止をかける。
「殺されるような事は無いだろうし!ね!心配しないで、大丈夫!大丈夫ですよ」
「・・・・・・・・」
イズミはわざとへらへら笑ってみせたエドワードが、自分をこれ以上危険な目にあわせないために安心させようとしているのだと分かった。
「あーはいはい、勝手に行きなさい!」
結局その意志を無下にする事も出来ず、ため息交じりに背を向けた。
「・・・・・・・・・晩ごはんまでには帰って来なさいよ」
「・・・・あ、はいっ!!」
「人造人間(と・・・同じ匂い?」
グリードの口から出た予想だにもしなかった言葉に、は動揺を隠せなかった。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!それってが人造人間(だって事!?」
「!」
が自分から切り出す前に、アルフォンスが先に極論を投げかけた。は一瞬驚いてアルフォンスを振り返ったが、どちらにしても疑問は同じだ。息を呑んでもう一度グリードを見やる。
「あー、いや。言い方が悪かったな。正確には何もかも全く一緒ってわけじゃねぇ。お前の体から人造人間(に近い匂いがするってだけで、お前自身が人造人間(だってことじゃねぇ」
「理解・・しかねるわ」
は強く拳を握ったが、その声は震えていた。
「だろうな。人間にゃ理解できねぇ独特の感覚だしよ・・・そうだな、例えて言うなら人造人間(の肉体に人間の魂をぶちこんだら、そんな風になるんじゃねぇか?思い当たるフシ、何かあんだろ」
「・・・・思い当たるフシが・・・無いわけでもないわ」
何故だか喉がひどく渇いて、声を出すと奥がひりつくような気がした。
だがは額から嫌な汗が流れる中、冷静に今の話を整理しようとしている。思い当たるフシと言われて思い浮かぶのは一つしかない。父の日記に書かれていた、幼い頃彼らが病気の自分に施した賢者の石を使っての人体の再構築。普通に生きていれば体験する事の無い出来事だ、だとしたらそこで何かしらの特異現象が起きたという事もありえる。
(でも・・だとしたら私は・・・)
”人間ではない”そう言われた気がして、瞳が揺れた。だがすぐに首を振る。
(駄目、今はそんな事考えてる時じゃないでしょう)
ここは敵地だと言う意識を引っ張り出して、無理にその考えをかき消した。今は悲観に浸っている場合では無いのだ。
「そう、あなたの言いたいことは解かったわ」
は強靭な理性で感情を押し殺してグリードを見上げた。するとグリードは小さく口笛を吹く。ショックで泣き崩れるのかと思えば、目の前の華奢な娘は結構な気丈らしい。
「気に入ったぜお前。俺は気の強い女は好きだ。本気で俺の物にしたくなったな」
「触らないで!」
嫌な笑みを浮かべて腕を引き寄せようとしたグリードを、は空気中の水分から一瞬で練成した氷のナイフで牽制する。だが構わず距離を詰めたグリードの喉元に、は迷わずナイフをつきたてた。
「言ったろ?俺には通用しねぇ」
「っ!!」
「!」
アルフォンスは思わず声を上げた。氷のナイフは音を立てて砕け散り、代わりには再びグリードの腕の中に捕らえられていた。
「もう一度言う。俺の女になれ」
「離しなさい」
強く腰を引き寄せられて、はグリードを睨んだ。
「嫌だっつったら、どうする?」
グリードは口端を吊り上げた。間近で見ればわかる、確かに気は強いが、が動揺を隠そうとしているのも確かだ。まるで手負いの獣のような碧の瞳に、グリードの深紅の瞳が獰猛に細められる。それは捕食者たる肉食獣が獲物を狩る目だ。
ーと、その時。タイミングよくドアが開かれて、エドワードが姿を現した。
そして無理矢理に迫っているようなグリードが目に入って、ぴしりと硬直した。
「・・・・・・・あんたがグリード?」
少しの間の後、部屋の中へ入ってきたエドワードはようやく声を絞り出した。しかしその声音がすでに怒り心頭といった感じに低く押さえられているのは気のせいだろうか。
「そういうおまえさんはエドワード・エルリックって奴か?」
するとグリードは少々残念そうにから手を離して、体を反転させた。
「すまねぇな、こっちの鎧クンだけど事が済めば楽だったんだけどよ」
「兄さんごめん・・・でもこの人・・・」
「ああ人造人間(だって?」
アルフォンスの言葉を皆まで待たず、エドワードは疑心暗鬼と言った風に奥歯を噛み締めた。
「おどろいたな、マジかよ?」
「俺はウソをつかねぇのを信条にしてる。なんなら証拠を・・・・いややっぱやめとこう。汚くなるし」
グリードはすでに槌を構えて準備万端だったロアを後ろ手に制した。
「兄さん、ボクの魂の練成方法と人造人間(の情報と・・・・」
「等価交換?」
エドワードは憮然としてグリードを見やった。
「そう!おまえらも人造人間(に興味があるって言うじゃねえか。いい取り引きだろう?」
グリードはこの様子ならエドワードが応じるだろうと踏んだようだ。だがしかし。
「ナマ言ってんじゃねぇーーーーーーーッ!!!!!バカ野郎がだいたいなんだあァ!?」
「にっ・・・兄・・・・さん?」
部屋中の空気を震わせんばかりの大声を上げたエドワードにアルフォンスは呆然とする。だが、グリードの腕から解放されたは苦笑するばかりであった。イズミの弟子と言う事もあり、血の気の多いエドワードが簡単に取り引きに応じるはずも無いだろうと、ある程度この事態を予測していたのだ。
「この状況わかってんのかコラ!!てめえらウロボロス組が何考えてるか知ったこっちゃねぇけどな!!ひとの弟さらっといて!!師匠(にケガさせて!!しかもにまで妙なちょっかい出しやがって!!!どのツラ下げて等価交換だァ!!?」
怒りの矛先を向けられているグリードはというと、目を点にしたままエドワードの怒涛の演説を聞いている。
「現時点をもっててめぇらはオレの中で大悪党に大決定!!魂の情報!?ンなもんミジンコ一匹分もくれてやるいわれは無ェ!!」
誰も止められないまま、エドワードの怒りのボルテージはぐんぐん上がっていく。
「悪党はボコる!!どつく!!吐かせる!!もぎとる!!すなわちオレの総取り!!!」
そして最後の決め手とばかりにどんっと指を突き出した。
「悪党とは等価交換に必要なし!!!!!」
そのあまりの勢いに、グリードは思わず拍手した。
(エドらしい)
至近距離で聞いていたためにさすがに耳鳴りがしたが、は小さく吹き出した。案の定これで取り引きは流れてしまうだろう。だが、アルフォンスには少し悪いが、妙にほっとした気がした。
(さて・・・どうしようか?)
to be continued
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あとがきという名の言い訳 vol.27
デビルズネスト編、大幅改定です;改定前に読んで下さった方々すみません(土下座)
初読の方はお気になさらず読み進めてください(汗)
修正日:2005/7/23