「皆に見てもらいたい物があるの」

翌朝。

朝食後に突然そんな事を言い出したに、エドワードとアルフォンス、そしてイズミは思わず顔を見合わせる。

だが、に言われるまま、昨日エドワード達がそうしたように一同は庭に出た。

「・・・驚かないでね」

一体何をする気なんだと自分に視線が注がれる中、は先にそう断る。そしておもむろにパンっと両手を合わせた。

「「「えぇっ!?」」」

その行動での意図に気付いた3人が異口同音の声を上げたが、彼女は構わず両手を地に着く。すると練成反応の青白い光の中、その場に可愛らしい子犬の彫像が練成された。

「う・・・・嘘だろ・・・・!?」

その信じられない光景に全員の意見を代表したエドワードが、驚愕の声を漏らした。










第25話 蜥蜴男の裏通り










「私がこれを出来るようになったのは二人と同じ真理をみたからです」

家の中に戻った3人は、テーブルを囲んでの話に耳を傾けた。

「じゃあ、まさか少佐も!?」

「ううん、私は人体練成はしてないわ」

アルフォンスの言いたいことを察したは先に釘を刺す。

「一体どう言う事なんだ少佐?」

「昨日君に話した・・・・・・あ、でもアルフォンス君にはこの事話してなかったのよね」

はふと気付いてアルフォンスを見やる。

「あ・・・・えっと・・・・その事なんだけど・・・ごめんなさい、少佐」

「え?」

「実は・・・兄さんを探しに行ったら偶然・・・その・・二人の声が聞こえちゃって・・・」

偶然とはいえ立ち聞きしていたなどと本人に告げるのはどうにも気が引ける。

「そっか。いいのよ気にしないで?どちらにしろ君にもそのうち話さなきゃいけなかっただろうし」

しかし、申し訳なさそうに小声で言った彼に、は少し目を丸くした物の笑顔でそう返した。


「・・・と、それじゃ本題に入るわね」


はそう仕切りなおして、昨夜エドワードにも一部しか話さなかった元第五研究所での出来事を説明しなおした。









「・・・つまり、その第五研究所とやらで、父親の日記を見た後そうなった・・・て訳だね?」

「はい」

一通りが話し終えると、イズミはその内容を簡単にまとめて腕を組んだ。

「生きた人間の体を再構築・・・・それによって真理を見る事が出来た・・・」

イズミはそう呟きながら眉を寄せる。

「でも、少佐の話からすると、人体練成無しでも真理を見る事ができるってことだよな?」

やはり同じように眉を寄せながらエドワードが聞いてくる。

「それは・・・私もずっと悩んでたんだけどね・・」

「〜〜〜あー!!わっかんねぇ!!」

エドワードは頭を抱えて椅子から仰け反った。

「えっと・・・確かにそれも気になるんだけど、私が言いたかったのはそこじゃなくてね、真理を見た時の記憶を取り戻した過程の方なのよ」

「記憶を取り戻した過程?」

「はい」

イズミの言葉には視線を向けて頷く。

「昨夜から考えてたんですが、お話したとおり、私は父の日記で当時の自分に関する記述を見た直後に思い出してるんです。もしそれが直接のきっかけになったのだとしたら、アルフォンス君の記憶も・・・」

言いながらアルフォンスに目を向けると、の言葉に気付いたエドワードが目を輝かせて立ち上がった。

「そうか!!母さんを練成した時みたいに・・・!!」

「そうだよ、兄さん!!同じ状況に触れればもしかしたら!!」

「って、お前達自分の家は焼いてしまったんだろ?」

「「あ・・・」」

イズミの至極冷静な突っ込みに、二人は一気に落胆してへなへなと座り込む。

「そ・・・そうだった・・・・」

エドワードはがっくりと机の上にうなだれた。

「え・・・・えっと・・・私の場合だけど、別に同じ状況じゃなくても、その時の記憶に関する断片でもいいんじゃないかな?」

実際は、11歳の時と同じ状況に陥ったわけでは無いのだから、その可能性は十分に考えられる。

「確かにそれは有り得そうだね・・・・おまえ達が母親を練成しようとしたとき、何か印象深かった物とか無いのか?」

「印象深かった物・・・・・何かあったかなぁ・・・?」

エドワードとアルフォンスは互いにうーんとうなる。人体練成といっても、材料になるのは水や炭素等、基本的に特別な物質ではないのだ。結局のところ何も思い浮かばず、全員がため息をついた。










その後、とりあえずは他の方法も調べるだけ調べようという事で、3人は手始めにダブリスの街にある図書館に行く事になった。



「ごめんね、あんまり役に立てなくて」

その道すがら、は隣を歩く二人に言う。

「いや、そんな事ないよ!!これってすっごい有力な手がかりだと思うぜ?」

「兄さんの言うとおりですよ、ありがとうございます、少佐!」

一から調べようとしていた記憶を戻すための方法が、一気に絞られたのだ。しかも自身が体験している実例である事が、何より大きい。

「ならよかった」

は少し安心したような笑みを見せた。

「ところで、一つ二人に言おうと思ってたんだけど・・・」

「「何?」」

が改まって言い出したことに、エドワードとアルフォンスはきょとんとする。

「別に私のこと”少佐”って呼ばなくていいのよ?ここには誰も咎める人はいないし、二人とも軍人じゃないんだしね」

それに私も堅苦しい階級で呼ばれるのはあまり好きじゃないから、とは苦笑する。

「え・・・じゃあ名前で呼んでもいいのか?」

「うん、””でいいよ」

その言葉に、エドワードとアルフォンスは少し驚きながらも嬉しそうに顔を見合わせた。

「じゃあ、オレの事もエドでいいぜ、

エドワードはにかっと、笑って自分を指差す。

「じゃあボクの事もアルって呼んでくださいね、

「敬語は使わなくていいよ、名前だけ呼び捨てなのに何か変な感じだからね」

はアルフォンスの言葉に微妙なニュアンスのずれを感じてクスクスと笑った。

「うん、わかったよ」

アルフォンスは少し照れくさそうに鎧の頭に手をやった。

「それじゃ改めて、これからもろしくね、エド、アル」

「おぅ!」

「うん!」

3人は一度立ち止まって、確認するように呼び合った後、誰からとも無く笑みをもらす。名前で呼び合うという極単純な行為が、こんなにも嬉しい物なのだと、彼らは初めて実感した。










「アル、どうだ?」

「全然ダメだよ、兄さん」

の方は?」

「う〜ん、こっちも似たようなものね」

「はぁ・・・やっぱこんな小さい図書館(とこ)じゃだめか・・・」

左右の本棚の影から返ってきたアルフォンスとの声に、エドワードは大きくため息をついた。

「どれもこれも大したこと書いてねぇ・・・」

エドワードは机の上に積んであった本の上に突っ伏した。

記憶喪失に関する一日がかりで探し出したそれらは結構な量だが、その内容は、”人体記憶学”等のちょっとした専門書に始まり、果ては”催眠術入門〜ボケ防止のための100の方法〜”等、はっきり言って実用性ゼロの雑学書の類まである。

「くっそ〜、丸一日無駄にした!!」

結局のところ収穫ゼロという結果に、エドワードはがしがしと頭を掻いた。

「そう簡単にはいかないよ、兄さん。それに朝に一番の大きな収穫があったんだから十分じゃないか」

アルフォンスは本を元の場所に戻しながら苦笑する。

「イズミさんも知り合いを当たってみるって言ってたし、きっといい方法が見つかるわよ」

未だ頭を抱えてうーうー唸っているエドワードに、は、ねっ、と微笑みかけた。目の前でそんな事をされた物だから、エドワードは思わず赤くなる。だが、はそれに気付かず本を戻しに行ってしまった。


「兄さん」

椅子に座ったままぼーっとしているエドワードに、アルフォンスの声がかかる。しかし彼は全く気付く様子すら見せない。

「兄さんってば!!」

「うわぁっ!!な・・・なんだよ急に!?」

その様子に少しムカッとしたアルフォンスが耳元で大声を出すと、エドワードは驚いて振り返った。

「なんだよじゃないよ、もう!!いつまでもに見惚れてないで、兄さんも片付けてよね!!」

「ば・・・馬鹿、大声出すな!!違うって!!」

「だったら、ほら!!」

「わかったわかった!!片付けりゃあいいんだろ!!片付けりゃ!!」

エドワードは慌てて立ち上がると本の山を抱えて、仁王立ちしているアルフォンスの横をすり抜けていった。


(分かり易すぎるんだよ、兄さんは)

アルフォンスがついたため息は、誰にも聞かれる事無く消えていった。







「うわ〜〜〜、すっかり遅くなちゃったな」

3人が図書館から出てくると、あたりはすでに薄暗くなり始めていた。

「兄さん本に集中すると時間忘れるんだもんなー」

「おまえだってなぁ!」

階段を下りながら二人はそんな風に言い合いを始める。から見ればあまりどちらも人のことは言えないのだが、この際それは口出さずに苦笑に留める事にする。


「・・・っと!近道しよう。急いで帰らないと師匠(せんせい)に怒られちまうよ」


エドワードは右に伸びる細い路地を見つけて二人を促した。



「お兄さん、そこのお兄さん。あわれな、あっしに恵んではくれませんか」

裏路地らしいその道を三人が小走りに進んでいくと、ふいにそんな声がかかった。それに気付いて声のした方に目をやると、路地の奥からみすぼらしい格好の男が近寄ってきた。どうやら物乞いらしい。

「うるせえ、働け」

しかし、その一言で一刀両断したエドワードは立ち止まる事すらせずスピードをあげる。無論アルフォンスともそれに続いた。

「ちょっと、冷てぇんじゃねぇの!?」

しかし、男は叫びながら追いかけてくる。

「ねえ鎧のダンナぁ!!そっちのブロンドのキレーなお姉さん!!」

「ごめんね、お金持ってないんだ」

「私もよ」

エドワードがダメならこの二人ならと思ったのだろうが、はやりアルフォンスとも止まろうとはしない。

「またまたぁ!国家錬金術師ならガッポリ持ってんでしょ?」

「そんな錬金術師知らねーよ」

だが、どこまで執念深いのかこの男はエドワードに向かって媚びるような笑いを浮かべる。

「ごまかさないでくだせぇよ。お兄さん一部の界隈じゃ、ちょいと有名ですよ。弟の魂を練成したってね」

全く取り合う気のなかったエドワードだったが、男のその言葉にぴくりと反応して立ち止まる。

「当たり?」

「ウザいぞてめぇ」

ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべる男をエドワードが睨みつける。

「そっちの鎧の人、体が無いんでしょ?」

その一言を言った瞬間、エドワードの左足が男の顔面に入り、彼は道脇のゴミ捨て場に突っ込んだ。

「行くぞアル、

そしてエドワードは何事も無かったかのように立ち去ろうと、

「・・・・ぶっ、ハナが折れちまった!!」

したが、立ち上がった男の声に再び立ち止まる。

「てめコラァ!!図星だからってなんだその態度!!まったく親の顔が見たい・・・」

逆切れした男の言葉は蛇足的に余計であった。次の瞬間彼の顔面をエドワードの投げつけたゴミ箱が直撃する。

「しつこいんだよ、てめーーーーはーーーーっっ!!」

「ギャーーーーーーーーー!!」

そして短い導火線に火がついた彼によって男は瞬く間に血祭りに上げられたのだった。



「へ・・・・・うぇへへへ・・・ムキになるって事はやっぱり・・・そっちの鎧は人間じゃねぇって・・・・か・・・」

「野郎まだ言うか!!」

この期に及んで往生際の悪い男に、エドワードが再び飛びかかろうとすると、その肩にぽんとアルフォンスの手が乗せられた。

「おじさん」

そしてアルフォンスは片手で男を摘み上げると何やら黒いオーラをまとってその顔を覗き込んだ。

「いいかげんにしてよね」

「・・・・うぇへっへ・・・わ・・・悪かったよ、ちょっと大人げ無かっ・・・・」

鬼気迫るその様子にようやく観念したかと思った刹那、

「!!」

突然何かがアルフォンスの頭を吹き飛ばす。驚いた彼は一瞬手を離してしまった。

「イヤッハァ!!間違い無ぇ!!魂を練成した奴だ!!」

その隙に抜け出した男は、叫びながら着地する。驚くことにその体からは、アルフォンスの頭を吹き飛ばした正体、蜥蜴のような尻尾が生えていた。

「この野郎!!」

「おっと!!」

すかさずエドワードが蹴りを繰り出すが、男は今までとは比べ物にならないほど機敏な動きで難なくそれをかわして見せた。

「もう用は無ぇ!!さいなら!!」

「逃がすか!!」

素早く踵を返して逃亡しようとする男に、エドワードがすかさず両手を合わせる。

「おーーー、すげぇ!!」

自分の行く手を遮る形で練成された巨大な壁に男は感嘆の声を上げた。

「でも!!」

しかし男は、そこに手を触れると本物の蜥蜴のごとく、あろう事か垂直の壁を難なく登りきってしまった。

「うそ!!」

さすがのエドワードもこれには驚きを隠せない。

「俺もすげぇ!」

男はその優越感に浸るように壁の上からエドワードを見下ろした。

「さいなら〜」

「待ちなさいっ!!」

そして男がに壁の向こう側へ飛び降りる動作を見せたのとが叫んで両手を合わせたのはほぼ同時だった。壁の真上に走った青い閃光が、男の尻尾を僅かに掠める。

「ぎゃっ!!」

瞬間的にそこに火傷を負った男は小さく悲鳴を上げたものの、結局壁の向こう側に逃げていってしまった。



「・・・・・・なにあれ」

騒動の後、エドワードの声がその場に空しく響いた。















カウロイ湖を始めとする数々の美しい自然により、観光地としても有名なダブリスだが、夜ともなればメインストリートから一歩奥まった場所にある繁華街の雰囲気は一転する。

道端では香水をまとった客引きの女と男との駆け引きがいたるところで行われ、似たような軒を連ねる酒場の中には、喧騒と煙草、そして酒のにおいがたち込めている。

そしてここ、デビルズネストもそんな店の中の一つだ。


「でかしたビドー!おまえはえらい!!

地下にある店の入り口のさらに奥、いわゆるVIPルームからそんな声が聞こえてきた。

「うえっへっへっへ」

男の褒め言葉に、ついさきほどエドワード達の前にあわられた蜥蜴男、ビドーは照れ笑いをしながら頭を掻いた。

「わざわざダブリスまで来てくれるとはな、さがす手間が省けたぜぇ」

そう言ったのは、ビドーの前にあるソファーで、金髪(ブロンド)黒髪(ブルネット)の美女をそれぞれ侍らせて我が物顔で座っている黒尽くめの男だった。

「いかがいたしましょう?」

すると、そのやり取りを見守っていた巨漢の男が声を上げる。

「急用だっつって来てもらえ」

黒尽くめの男はジャラジャラとアクセサリーのついた手を軽く振った。

「抵抗するなら、ふんじばってでも連れて来い。ただし!」

男は釘を刺すように左手を伸ばす。



「ビッグゲストだ、まちがっても殺すんじゃねーぞ」



その手の甲にはウロボロスの刺青が刻まれていた。





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.25

えーと、とりあえず一番の突っ込みどころとして、嬢、そんなに簡単に練成してみせちゃっていいんですか?(笑)
本編中では子犬の彫像になってますが、本当はエド並のディティールセンスになるはずでした・・・・が、怒られそうなのでやめました(笑)
しかし、第3部に入ってようやくエルリック兄弟と名前で呼び合うようにできました〜;いつそうするか、タイミングをずっとうかがってたんですが、なんかこれ以上延ばすとかえって機会失いそうなんで今回からそうしました(苦笑)

修正日:2005/7/14