「アルお待たせ!!」

三日後、完成した機械鎧(オートメイル)を装着したエドワードはさっそくアルフォンスの元に走ってきた。

「その様子だとつけ心地は良いみたいね・・・と、これで鎧の破片全部よ」

言いながらは運んできたアルフォンスの鎧の破片をシートに上に置く。

「あ、悪いな少佐、運ばせちゃって」

「すぐ直るのか?」

「うん、ちょっとコツがいるけどね。背中の内側に印があるだろ」

「うむ」

アームストロングが言われた箇所を覗き込むとそこには赤黒い色で描かれた練成陣があった。

「これがアルの魂と鎧の仲立ちになってるんだ。この印を崩さないように手足を直さなきゃならない」

「血文字のようだな」

「血文字だよ、オレの血」

「血・・・・」

さらりと肯定された言葉になんとも微妙な顔で呆然とするアームストロング。

「それにしても危なかったなー」

「もう少し深くえぐられてたら終わってたねー」

対照的にエドワードとアルフォンスはのほほんと笑い声を上げる。それは生死をかけて戦い、生き残ったからこその笑い話であった。

「じゃ、行くぜアル!」

エドワードが胸の前で手を合わせると、練成反応の光が起こり、瞬時にアルフォンスの体が元通りの形に練成された。










第14話 星降る夜










「よーし、んじゃ早速・・・・」

アルフォンスの鎧を満足げに眺めたエドワードは手早く髪を三つ編みにする。

「せいっ!」

するとその直後、アルフォンスが即座にエドワードに向かって接近する。

「おっとっ・・・・」

体を宙で反転したエドワードが着地すると今度は頭上から容赦なく鋼鉄の拳が叩き下ろされた。

「とっ!」

すれすれでかわしたエドワードは跳ねた勢いで腕を地に付き、逆立ちの動作でアルフォンスを蹴り上げる。

「げ」

しかし、簡単にその足をつかまれたエドワードはアルフォンスに投げ飛ばされてしまった。



「・・・アルフォンス君の修理が終わったと思ったら・・・」

「兄弟喧嘩か」

いきなり取っ組み合いを始めた二人にとアームストロングはしばし唖然とその光景を眺めていた。

「ちがうちがう、手足の作動確認も兼ねて組み手をやってるんだよ

その声が聞こえたか、エドワードはアルフォンスとの攻防を続けながらそう答えた。

「それにここしばらく体を動かしてなかったからカンを取り戻さないとね」

アルフォンスが補足する。

「ほほう・・・」

二人の言葉にアームストロングの目がきらりと光った。

「ならば我輩も協力しよう!!」

一瞬で上着を脱ぎ捨てたアームストロングに、身の危険を感じたエドワードとアルフォンスが逃亡をはかろうと試みた、

「遠慮無用ッ!!」

が、その行為は虚しく終わった。

「じゃあ、私も参加させてもらおうかな」

「「ええっ!?」」

思わぬの声にエドワードもアルフォンスも驚きの声を上げる。

「む・・・無茶言うなよ少佐!!怪我治ったばかりだろ!?」

「あら、エドワード君だって似たような物じゃない?」

はにこりと笑うと羽織っていたジャケットを脱ぎすててタンクトップ一枚になった。これはすでに臨戦態勢である。

「オレに女相手に戦えってのかよ!?」

「大丈夫、そこら辺の男に引けは取らないくらいの自身はあるから」

と、が視線を向ければアームストロングが大きく頷いた。

「うむ、女性だからと言って侮ってはならんぞ、エドワード・エルリック!いい鍛錬になるぞ」

「いや・・・少佐が強いのは知ってるけどさ・・・」

の戦い方はエドワードもよく見ている。

(だからって・・・オレのせいで怪我させたようなもんだってのに・・・)

「あ・・・兄さん!」

「ん・・・っって、どわ!?」

アルフォンスの声に思考を中断してあげた視線の先には眼前に迫るの拳。エドワードは慌てて膝を曲げてそれをかわした。

「油断大敵!」

にっと笑ったはそのままの勢いで右足を大きく蹴り上げる。

「っ!!ああもう!!どうなっても知らねーからなっ!!」

交差した腕でそれを防いだエドワードはヤケになって叫んだ。

「そうこなくっちゃ」

下段からのエドワードが突き出した拳を交わしたは一度後ろに跳んで間合いを空けると笑った。



(やっぱ・・・速ぇ・・・)

再び組み合いながらエドワードは思った。実際にこうやって手合わせをしていると、スカーとの戦いで見た時よりも数段速く思える。

彼女自身は軍人にしては小柄で、身長的にはエドワードとほとんどかわらない。まして、華奢な体では男のように力があるわけでもない。それでも彼女が引けを取らないのはその俊敏さのためだろう。常人離れの速い動きで相手を翻弄し、急所への攻撃を繰り返す。短時間で決着をつけることを前提とした実戦向きの体術。それがの戦い方のようだ。

(にしても・・・なんか引っかかるんだよなぁ・・)

の攻撃を受けかわす度に、何故か感じる既視感。

(この戦い方・・・どっかで見たような・・・)

見たというよりはどちらかというと体が覚えているような感覚だ。一体どこでと思った瞬間、頭上から声がした。

「はぁっ!!」

「うわっ!?」

どさっと言う音と共に2人はその場に崩れ落ちた。

「む?」

「あ、兄さん!少佐!」

その光景に思わず同じように組み手をしていたアームストロングとアルフォンスが声をあげた。

「・・・っはあ・・・・危ねぇ・・・」

エドワードは大きく息を吐いた。跳び上がった高い位置から全身で拳を突き出してきた。エドワードは咄嗟にその拳を掴むと勢いを殺しながら後退したのだが、バランスを崩して2人とも倒れこんだのだった。

「あはは・・・あーあ、負けちゃった・・・」

は息を切らせながら腕を目に当てた。

「ったく、あははじゃ・・・・!!」

エドワードは思わず言葉を失った。

「?どうした・・・・」

不審に思ったが腕をどけて目をあけると彼女も同じように言葉を失ってしまった。思いのほか近くにエドワードの顔があったからだ。至近距離で目が合って、二人は思わずドキリとする。

「・・・・・・」

エドワードは今必死でこの状況を整理していた。組み手をしていて、の攻撃によろけて、そして今彼女は、

「っ!!ご・・・ごめん!!」

そこまで考えてエドワードは沸騰した。どうやら自分が勢いあまって押し倒してしまったらしい。成り行きとはいえの体の上に馬乗り状態になっている自分に気付いて慌てて飛び退いた。

「あ・・・ううん・・私こそごめん・・・」

その様子にようやくも状況を理解したか真っ赤になって起き上がった。


「青春だな」

「青春ですね」

一連の出来事を見ていたアームストロングとアルフォンスがそう呟いていたことなど2人は知る由もない。




夕刻。結局半日近く続けられた組み手の練習に4人はあちこち泥だらけになっていた。

「んー、久しぶりによく動いた」

は満足そうに背伸びする。

「でも、少佐どこであんなに体術を?やっぱり軍の訓練とかですか?」

「うん、それもあるけど、大半は私の錬金術の師匠から習ったのよ?」

アルフォンスの言葉にがそう答えると、ぴくりと反応したエドワードが立ち止まる。

「”精神を鍛えるにはまず肉体を鍛えろ”って言われてね」

今度はアルフォンスまでもが立ち止まった。思わずエドワードと顔を見合わせる。

「ちょっと待った・・・・その師匠って・・・・女の人?」

「あ、うん。よくわかったね?」

さーっとエドワードの顔から血の気が引いた。アルフォンスも何故かその鎧の体をかたかたと震わせている。

「どうしたの2人とも?」

あからさまに様子のおかしい二人には首をかしげた。

「な・・・・なんでもない!!っな!!弟よ!!」

「そうだね兄さん!!」

「?」

不自然な2人の反応にはますます首を傾げる。

「め・・・・メシ!!メシにしよう!!ばっちゃんハラ減った!!」

しかし、エドワードによってその会話は強制的に終了させられたのであった。












その日の夜、夕食も終り、明日朝一でセントラルにむかうとのことで一同は速めに床についた。

はあてがわれた一室のベッドで少しの間眠っていたが、ふいに目を覚ました。
木製のベッドの上から天窓を見上げれば星が明るく、まだ深夜であることに気付く。ごろりと寝返りを打ったものの、どうにも意識が冴えていて眠る気が起きない。

一度大きくため息をつくとそっと起き上がりベッドサイドにかけた上着を羽織って廊下へ出た。階段を下りて廊下を歩むと開け放しになっているドアがある。そこはエドワード達が使っている部屋のようだ。起こさないように足音をなるべくたてずその部屋の前を通り過ぎ、そっと外へと通じるドアを開いた。

後ろ手にドアを閉じて少し歩き、見上げた視界に映るのは満天の星々。壮大な輝きに思わずため息が漏れる。


「寝れないのか?」

ふいにかけられた声に振向けば、今しがたが通って出てきたドアの前にエドワードの姿。

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや・・・オレも起きてたから」

言いながらエドワードはの隣まで歩んでくる。

「ちょっと星が見たくなってね」

「星?」

「うん」

は頷いて静かに地面に腰を下ろした。自然と同じようにエドワードも隣に腰をおろす。

「私の故郷からもたくさんの星が見えたから」

「・・少佐の故郷って、北の方だっけ?」

「そうよ」

は静かに夜空を振り仰いだ。

「私が生まれたイダヴェルはね、アメストリスの北の北・・・汽車も通ってないような辺境地だったけど、星空だけは綺麗だった」

視線を戻してエドワードに笑いかける。

「村中どこも田園地帯が広がってて、晴れた日は羊と一緒に一日中遊んだわ・・・だからなんだかちょっと懐かしくなってね、リゼンブールはあの場所によく似てる」

「なんか意外だな、少佐って都会育ちかと思ってた」

「そう見える?都会の方に引っ越してきたのは9歳の時よ」

エドワードの不思議そうな声には小首を傾げて見せた。

「そうなんだ。じゃあ少佐の家族も今はこっちに?」

何気ないエドワードの質問だったがの表情が僅かに曇った。

「・・・・もう、いない・・・」

「え・・・?」

「今の家族・・・家は私と血のつながりは無いの。本当の父と母は・・・・死んだわ・・・」

「・・・ごめん・・・オレ、知らなくて・・・」

聞いてはいけない事を聞いてしまったと、エドワードは俯いてしまう。

「ううん、気にしないで」

はそんなエドワードの様子に苦笑した。

「・・自分のことを待っていてくれる人がいるのは嬉しいことよ。エドワード君にとってピナコさんやウィンリィちゃんがそうであるようにね」

「・・・そうだな」

エドワードはごろりと横になる。その様子には昨日の彼との会話をふと思い出した。

(・・・私は・・・やっぱり弱い人間かもしれない・・・)

本当は誰かに自分の弱さをさらけだしてしまいたいのかもしれない。でもそうすることで、今までのようにいられなくなる気がして。結局怖くて出来ずにいる自分。”強くあること”の意味をこの年下の少年に教えられた気がした。


「エドワード君寝なくていいの?明日朝一の汽車に乗るんでしょ」

「・・もう少しここにいる。少佐は?」

「うーん・・・私もまだいようかな」

「そっか」

「うん」


結局二人が部屋に戻ったのは空が白み始めるころであった。











翌朝、鶏が朝を告げる頃にはすっかり準備を整えたエドワード達がロックベル家の庭に立っていた。

「世話になったなばっちゃん」

「ああ」

エドワードが言うと見送りに出ていたピナコが頷いた。

「あれウィンリィは?」

姿の見えないウィンリィにアルフォンスは辺りを見回す。

「徹夜続きだったからまだぐっすり寝てるよ。起こしてくるかい?」

「あーいいよいいよ。起きて来たら機械鎧(オートメイル)の手入れはちゃんとしろだの、あーだこーだうるさいから」

そう言ったピナコにエドワードは手を振った。

「じゃあな」

「ああ、気をつけて行っといで」

背を向けて歩き出したエドワードの後姿にピナコはキセルを加える口を僅かに緩めて笑った。

「ボウズども、たまにはご飯食べに帰っておいでよ」

「うん、そのうちまた」

「こんな山奥にメシ食うだけに来いってか」

振向いて言うアルフォンスとは対照的に毒づいたエドワード。その姿に思わずアームストロングの口から笑いがもれた。

「ふっふ・・・」

「?なんだよ」

「迎えてくれる家族・・・帰るべき場所があるというのは幸せなことだな」

「へっ、オレたちゃ旅から旅への根無し草だよ」

そうはき捨ててそっぽをむいたエドワード。昨夜とは正反対のことをいうその姿にも頬をゆるめた。

「エド!アル!」

今度こそ出発しようと歩き出した二人に頭上から声がかかる。見上げれば三日前に来た時と同じようにベランダから乗り出したウィンリィの姿。

「いってらっさい」

寝起きらしい彼女はどこか舌足らずな口調で言うとひらひらと手を振った。

「おう!」

エドワードはどこかきまり悪そうに頭を掻き、背を向けて手をあげると、後はもう振向かずに歩き出す。




ロックベル家で過ごした数日間の温かいぬくもりを胸に、4人はリゼンブールを後にした。





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.14

この長編、夢小説と銘打ってる割りに最近そう言う要素が少ないので少しは入れようと思ったところ、前半どうしようもなくラブコメになりました(汗)あ、エルリック兄弟は何やら怯えてましたが、嬢の師匠はあのお方ではないですよ?(笑)まったく関係なくもないですが・・・本編には登場させない予定なのでそのうち外伝とかで突発的にかくかもしれません。
ついでにヒロインの故郷『イダヴェル』ですが、これは北欧神話でアースガルドの中央にあるという緑の平原です。北繋がりというだけでこの名前(笑)

さて、次回15話でようやく本編が『エルリック兄弟サイド』と『軍部サイド』に大きく分岐します。話中に選択肢があるのでどちらかを選んで読み進める形になりますが、両サイドとも同じペースで更新していく予定なので同時に読むことも可能かと思います。