義足の調整に来ていた患者を見送って、自宅兼診療所から外に出たピナコ・ロックベルはキセルに火をつけ一服ついた。
吐き出された白い煙がふわふわと漂う姿を見ていると、ふいに地面に寝そべっていた飼い犬デンが一吼えする。

「ん?なんだいデン」

言いつつデンの視線の先に目をやれば、丘を越えてやってくる数人の姿。先頭を歩くのは見知った顔。

「おや来たね・・・・・ウィンリィ!上客が来たよ!ウィンリィ!

彼女は背後の二階を振り仰ぐと、作業中の孫娘に声をかける。

「ふん・・・・元気そうじゃないか」

一足先にデンによって迎えられたその人物に、ピナコの顔にも笑みが浮かんだ。

「よう、ピナコばっちゃん。また、たのむよ」

エドワード・エルリック、久々の帰郷である。










第13話 家族の待つ家










「こっち、少佐とアームストロング少佐」

エドワードはとアームストロングを示してピナコに紹介する。

「ピナコ・ロックベルだよ」

です」

「アレックス・ルイ・アームストロングであります」

「しかし、しばらく見ないうちに・・・・」

2人とそれぞれ握手を交わした後、ピナコはアームストロングとエドワードを見比べて呟いた。

「エドはちっさくなったねぇ」

言ってはいけないその一言は、エドワードの短い導火線に瞬時に火をつけた。

「だれがちっさいって!?このミニマムばば!!」

「言ったねドちび!!」

「豆つぶばば!!」

「マイクロちび!!」

「ミジンコばば!!」

目の前で繰り広げられる同レベルの争いに、一同が目を点にしていると、突然頭上から声が降ってきた。

「こらー!!エド!!」

その声に、はっとエドワードの顔色が変わった。

「ごふ!!!」

しかしその直後、彼の脳天を強烈な勢いで鉄製のスパナが直撃する。

「メンテナンスに来る時は先に電話の一本でも入れるように言ってあるでしょーーーーー!!」

スパナの振ってきた方向に目を向ければ、作業着姿の少女がベランダからこちらを見下ろしている。

「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」

「あはは!おかえり!」

巨大なたんこぶを作ったエドワードが抗議の声をあげれば、少女、ウィンリィは満面の笑顔を浮かべた。

「おう!」

その表情に毒気を抜かれたか、エドワードは仏頂面ながらもそう返事を返した。







「んなーーーーーーーーーーっ!!」

「おお悪ィ、ぶっ壊れた」

部屋中に響き渡る声で叫びながら、ウィンリィはエドワードの右腕を指差した。

「ぶっ壊れたって、あんたちょっと!!あたしが丹精こめて作った最高級機械鎧(オートメイル)をどんな使いかたしたら壊れるって言うのよ!!」

「いやそれがもう、粉々のバラバラに」

「バ・・・・・」

悪びれも無く言うエドワードによろめきながらも、しっかりその脳天に本日2発目のスパナを喰らわせたウィンリィは、木箱に入ったままのアルフォンスに目を向ける。

「で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたらいったいどんな生活してんのよ」

「いやぁ」

なぜか照れるアルフォンスにウィンリィがため息をつくと、エドワードはこれまでのいきさつを簡単に説明した。



「−で、その賢者の石の資料とやらを手に入れるために、一日も早くセントラルに行きたいって言うのかい?」

「そう、大至急やってほしいんだ」

一通りの話を聞いたピナコはエドワードの左足の機械鎧(オートメイル)に手を触れる。

「うーん、腕だけじゃなく足も調整が必要だね。足の方は元があるからいいとして、腕は一から作り直さなきゃならんから・・・・」

呟きながらキセルの先でカンカンと機械鎧(オートメイル)を叩くピナコにエドワードは不安そうな声で言った。

「ええ?一週間くらいかかるかな?」

「なめんじゃないよ、三日だ」

その言葉に、ピナコは一度キセルを吸うと煙を吐き出しながら自信たっぷりに言ってのけた。

「とりあえず三日間はスペアでがまんしとくれ」

「うん」

ピナコが代わりの義足を左足に取り付けると、エドワードは一度立ちあがってみる。

「と・・・やっぱ慣れてない足は歩きにくいな」

「削り出しから組み立て、微調整、接続、仕上げと・・・・・うわカンペキ徹夜だわ」

その後ろでは膨大な作業の数を指折り数えたウィンリィがげんなりと呟く。

「悪いな無理言って」

「一日でも早くセントラルに行きたいんでしょ?だったら無理してやろうじゃないのさ。そのかわり特急料金がっぽり払ってもらうからね!」

すまなさそうにしているエドワードの肩をウィンリィが勢いよく叩くと、彼はバランスを崩して積んであった箱の山に突っ込んだ。

「あ・・・慣れてない足だっけ」

「・・・・・・・」

エドワードは青筋を浮かべながらも無言で立ち上がると、その様子に必死で笑いをこらえているに気付いた。

「あ、そうだった。ばっちゃん少佐を診てやってくれよ」

「エドワード君、私マルコーさんに腕治してもらったから大丈夫よ?」

いきなり自分に話が向けられては苦笑しながら手を振って見せた。

「何言ってんだよ、腕は治ったかもしれないけど内臓損傷してるって言われただろ?」

「なんだい、その子そんな大怪我してたのかい!?」

まったく気付かなかったとピナコは不思議そうにを見つめた。

「どれ、診てやるから上着脱いでそこに座りな」

「はい、すみません・・・・あ、でも・・・」

は頷きながらもちらりとエドワードの方を見た。それにウィンリィが気付く。

「ちょっとエド!!いつまでいるつもり!?それにあなたも!!」

びしっと指を指されたエドワードとアームストロングはわけがわからず思わず顔を見合わせた。

「これから若い娘の腹を診ようってんだよ!!男はとっとと外に出なっ!!」

「「は・・・はいっ!!」」

ピナコにどやされた2人は慌てて部屋の外に飛び出していった。








「・・・・ったくなんなんだあの狂暴女は!!」

「ははは、何を今さら」

追い出されたエドワードは、庭に座るアルフォンスの隣でぼやいていた。

「はーーーー、三日か・・・・・」

ため息をつきながら地面の上にごろりと横になる。

「・・・・・・・・・とりあえずやる事が無いとなると本当にヒマだな。ここ図書館もなんも無いし」

青く澄んだ空に白い雲。小鳥達が楽しげに舞い遊ぶ平穏そのものの風景をしばし見上げていたものの、すぐに飽きが来る。

「ここしばらくハードだったから、たまにはヒマもいいんじゃない?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ヒマなのは性に合わねぇ!!」

(だろうね・・・)

落ち着きの無さは兄の専売特許である。自分の横でじたばたと手足を動かすエドワードにアルフォンスは深いため息をついた。

「だいぶ退屈そうね、エドワード君」

ふいに影がさした自分の視界に視線を上げれば、逆光の中にの髪がきらきらと輝いている。

少佐、もう終わったの?」

「うん、さっきは追い出しちゃったみたいでごめんね」

言いながらは寝そべるエドワードの横に腰を下ろす。

「ばっちゃん、なんだって?」

「あ、うん。まったく問題ない・・・全身健康そのものだって」

「へぇ、じゃあやっぱりあの時マルコーさんが?」

「うん、腕だけじゃなく体中の怪我も治してくれたみたい」

「よかったじゃん!」

エドワードが歯を見せて笑うと、もつられて笑顔になった。

「ありがとう、エドワード君達のおかげよ」

偶然とはいえあの時あの町で降りていなければ、自分は未だ重傷を負ったままであったろう。は動かせるようになた右腕を自分の目前にかざしてみる。

「そうだ、兄さん。そんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」

そんなの様子を見るうちにアルフォンスはふと思い出したように言った。

「墓参りか・・・・でも、おまえそんなナリじゃ行けないじゃん」

「アームストロング少佐にかついで行ってもらうのも悪いからボクは留守番してるよ。機械鎧(オートメイル)が直ったらすぐセントラルに行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」

「そーだな・・・・」

エドワードは体を起こして小さく伸びをする。

「ちょこっと行ってくるか・・・・・よかったら少佐も来るか?」

「え?でも邪魔しちゃ悪いでしょ?」

はもちろん生前のエドワードの母に面識があるわけが無い。意外なエドワードの発案にきょとんとする。

「別にそんなこと無いぜ?それに一人で出歩くとアームストロング少佐に怒られそうだしさ」

なっ、と自分に向かって差し出されたエドワードの手のひら。は思わず笑顔になるとその手を取って立ち上がった。











ロックベル家から長い道を歩いた街外れにあるこじんまりとした墓地。

2人は墓地を囲う柵を越えて、目的の場所、トリシャ・エルリックの墓標の前に佇んだ。エドワードはの手から花束を受け取ると、そっと墓標に手向ける。

「・・・久しぶり、母さん。ずっと来れなくてごめんな・・・」

物言わぬ石の造形物に向かって言葉を発するエドワードの表情は普段の彼と違い、どこか寂しげな物だった。はその横顔をただ黙って見つめている。ざっと吹いた風が、2人の髪を優しくなぶった。

なんともいえない雰囲気のまま、少しの時間が過ぎやがてエドワードは静かに立ち上がるとに言った。

「・・・見てもらいたい場所があるんだけど、いいかな?」






「・・・・ここは?」

はその光景に呆然と言葉を漏らした。目の前にあるのは枯れた一本の木と、崩れ落ちた廃材の山。エドワードが彼女を連れてきたのはどうみても廃墟のような物寂しい場所であった。

「オレ達兄弟の家」

「え・・・・・火事にでもあったの?」

よく見れば枯れた木は一部が焼け焦げ、廃材も同じような状態になっている。

「違うよ、オレ達が自分で焼いたんだ・・・国家錬金術師になったときに・・・」

エドワードは自嘲するように僅かに笑った。

「少佐は知ってるだろ?オレが資格取った理由」

が無言で頷くとエドワードは廃墟の方に視線を向けた。

「だからこれはオレ達の決意の証。後戻りできなくするための・・・」

「決意の・・・証・・・・」

エドワードの言葉にはそっと自分の左胸に触れた。

「少佐?」

「あ・・・ううん・・・・でもどうして私に?」

不思議そうに自分を見るの視線にエドワードは”うーん”と頬を掻いた。

「なんていうか・・・・強くなるため・・・かな?」

「?」

は首をかしげる。

「あー・・・えっとつまり、自分の決意を他の人に見せるってそう言う事だろ?」

「強くなるため・・・・・」

決意の証、それは逆にいえば形に残した自分への戒めでもある。それを他人にさらけ出すというのは、勇気のいる行動でもあるだろう。

「オレ・・・なんか変なこといったかな」

エドワードはいつまでも反応を返してこないを不安になって覗き込む。

「あ、ごめん!そんなことないよ!!」

はっと我に帰ったは慌てて首を振った。エドワードはその様子にほっと笑顔を浮かべる。

「・・・帰ろうか、みんなが待ってる」











決意の証

他人にそれを見せることの意味

自分への戒め

強くなること




その帰り道、の頭の中ではそんな言葉が繰り返されていた。同時に心をしめる焦燥にも似た葛藤。ひた隠しにしてきた部分が僅かな疼きを見せ始めていた。





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.13

12話に比べ今回は大分短めです。
出合うまではただ単に、年が近いという親近感でエドワードに興味を持ったヒロイン。しかし、家や家族のこと等に触れるうちに、それは少しずつ変わってきます。心を開き始めているのはエドワードも同じく。
分岐点が近いのでやたらとヒロインの心理描写が多くなってきました。彼女の葛藤とは?