罰当りな人々 第7話『錬金術師の苦悩』より
祭壇へと続く長い廊下の左右に整然と並ぶ長椅子には随分と埃が積もっていた。だが、それでも天井近くにかかるステンドグラスや神像の荘厳さは失われること無くその存在を静かに息づかせている。
それらを眺めながら廊下を進むと祭壇の上、十字架に張り付けられた異教の神像の真下に彼女は居た。
「・・・・」
天窓から差し込む僅かな光に照らされたの後姿。今にも消えてしまいそうなその儚げな姿に一瞬声をかけるのが躊躇われた。
「ジャン・・・・」
ゆっくりと振り返った彼女の表情は後姿よりもさらに儚げで、ハボックは思わず走り出していた。
「・・・どうしてここが?」
祭壇に飛び乗って自分の隣に来たハボックには小さな声でたずねた。
「そんなことどうだっていい。それよりずぶ濡れじゃないか!!」
「ジャンだって似たようなものじゃない・・・・」
自分以上に酷い状態のハボックの様子には僅かな笑顔を向けた。その泣き笑いの表情にハボックは胸を締め付けられるような気がした。
「・・・見て・・・・」
はゆっくりと腕を上げると真上にある十字架を指差す。
「ここはね・・・・遠い西の大陸の教会なの・・・・錬金術師は科学者だから神様なんて信じないし信仰心も無いけど・・・・あの神像は希少価値が高くてね・・・」
「・・・・」
”私、アンティークとか骨董収集が趣味なの。それに高く売れるのよ?”
彼女が自分にそう語って見せたのは昨日の夜のことで、そして今、マニアに売ったらさぞかし高値のつきそうな神像が真上にある。の今の気持ちがどんなものなのか想像できなくはないが、軽々しくかける言葉は見つけられない。
「私は・・・・あれの価値がどれくらいするかわかっているのに・・・・私の身長じゃ・・・・あの高さには届かなくて・・・っ」
最後の方の言葉は嗚咽が混じっていた。爪が喰いこむほどきつく握り締めた拳に血が滲む。
「っ・・・・」
見かねたハボックは思わずの細い体を抱きしめていた。
「・・・ジャ・・・ン?」
突然のことに目を見開くの頭に手を回して、自分の肩口に軽く押してやる。
「俺が・・・お前の代わりに取ってきてやる・・・・」
「・・・・・でも」
「手間賃よこせ何て言わないから・・・・それならいいだろ?」
あやすようにの背中をポンポンと叩いて、ハボックはもう少しだけきつく彼女を抱きしめた。
濡れた服越しにハボックの体温が伝わってくる。温かいぬくもりに包まれて瞳からはぽろぽろと涙が溢れた。
「ぅ・・・・くっ・・・・」
はたまらずハボックの胸の軍服を握り締めて、肩に顔を押し付けた。
しゃくりあげる背中を撫でながらハボック神像を見上げる。
(・・・この古い教会からあれ取ったらただの廃墟になっちまうだろーな・・・)
嗚咽は漏れるが泣き声は上げないの代わりに、彼は至極冷静にそう思った。
END