Act.4 A definition of love -プライド-










二年の後期、隊付勤務の実施演習が終わって学校に戻って来ても、とロイの関係は全く変化していなかった。だが、それは第三者の意見であり、自分自身の変化に気付かずにいるほどロイは鈍くはない。


(まさかヒューズの言う通りになろうとはな)

寮の自室で硬いベッドに横たわりながら、ロイは狭いスペースを挟んで向こう側にある空のベッドに目をやった。
その持ち主がいつだったか”天下のたらしも、ついに本気で惚れたか?”と言っていた。冗談交じりの言葉にその時は自分も一緒になって笑ったものだが、冗談ですまない状況になってしまったのだから、今はもう笑えない。

ロイは何時の間にかの事を本気で好きになっていた。

明確にそれを意識した時期は覚えていないが、ただ漠然とそうだと気付いた。だが、それは本人にはもちろん、親友であるヒューズにすら言っていない。そうすることはロイのプライドが許さなかったからだ。

今まで大勢の女性と付き合ってきたが、彼女達は皆、自分にとって都合のいい存在であり、ステータスのようなものだ。もちろん相手もそれをわかっていただろうし、中には本気でロイのことを好きだと言って来る者もいたが、彼はそう言う存在をあっさり切り捨てて来た。
元々束縛される事を好まない性格だと言う事もあるが、ロイが女性に対して求めるのは、重く煩わしい一途な恋愛感情ではなく、端的に言えば邪魔にならない程度の遊び相手である事なのだ。

そんな風にどこか愛と言う言葉を小馬鹿にしてきたからこそ、その自分が誰かに本気になるなどあまり認めたくない。仮に認めても自分以外に気付かれぬよう隠しておければそれでよかったのだ。

(出来れば苦労しないさ)

ロイは深くため息をついて寝返りを打った。

そう、隠しておけるならばなんら問題はなく、こうして何十回もため息をつく必要すらないのだ。情けないが、自分は実のところそうしていることに限界を感じている。日々募る思いと言うのを今まで経験した事がないだけに、それの対処法がわからない。いい加減になんとかせねば、行動に支障を出しかねない状況だった。



もしかしたら、意識しているよりもずっと自分は切羽詰っていたのかもしれない。だから、部屋に戻って来たヒューズにぽろりともらしてしまったのだろう。



「誰かを本気で好きになった事はあるか?」

突然そんな事を言い出したロイに、ヒューズは一瞬目を丸くし、そして次の瞬間には腹を抱えて大笑いしだした。

「私は真面目な話をしてるんだがね、ヒューズ」

「ぶっははっ・・・!!い・・いや、悪い悪い。まさかお前の口からそんな言葉が出るとは夢にも思わなかったからよ」

青筋を浮かべたロイに、ヒューズはパタパタと手を振りながら、自分のベッドにドカリと腰をおろした。


「・・・どうなんだ?」

「誰かを本気で好きになった事?そりゃあるさ」

ヒューズは目を伏せて笑いながら眼鏡を外した。

「高校のときだったっけかな?優しくて可愛い子がいてよ、気付いたらいつもその子のことばっか考えてたな。それで思ったんだよ、俺は彼女の事が好きなんだって」

ヒューズは思い出すように少し上向いてから、ベッドのサイドボードから眼鏡拭きを取り、眼鏡を拭き始めた。

「それからは今まで以上に彼女の事を考えるようになった。そうしたら何も手につくかなくなってよ」

「・・・それで、どうしたんだ?」

「どうって、そりゃ告白したさ。好きだって」

「で?」

「見事にフられた」

「だろうな」

「おい」

さらりと酷い返答をしたロイを、裸眼のままヒューズが睨んだ。

「お前な、人の涙の青春時代をなんだと思ってんだ」

「いや、悪気は無いんだが」

ヒューズはどうだかと嘆息した。

「けどよ、悶々としてるよか、ずっとすっきりしたぜ?確かにフられちまったけど、俺が彼女を好きなのは変わんねー訳だし」

「そんなものか?」

「そんなもんだろ」

ヒューズは綺麗になった眼鏡をかけて顔を上げた。

「言っちまえまいいじゃねーか、に」

不意に真面目な声音になったヒューズにロイも顔を上げる。

「好きになったんだろ?本気で、彼女の事」

「俺は・・・」

「お前の事だから、どうせまた妙なプライドとかにしがみついてんだろーが、そう言うの捨てんのも必要だと思うぜ」

「・・・・・・」

「本気でぶつかるのと、そうじゃないのとじゃ相手の見方だって全然違う。格好つける必要なんかないんだよ。理屈とかそう言うのもいらない、そういうもんだろ恋なんて」

ロイは口をつぐむ。どうやらヒューズはロイ以上にロイを知っているようだ。

「−と、余計なお世話かもしんねーが、もう一つ言っとくならなら俺が帰ってくるとき図書室に一人でいたぜ?」

そこでヒューズはにっと歯を見せて笑った。彼と目が合って、ロイは少しの後苦笑して立ち上がる。

「恩に着るよ、ヒューズ」

「んなもん着るな。せいぜい頑張れや」

珍しく素直に礼を述べたロイに、ヒューズは早く行けとばかりに手を振った。


「不器用な奴」

部屋のドアが閉まった後、ヒューズがそう呟いたのを、もちろんロイは知らない。





to be continued





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