今思えば妙な再会の仕方をしたものだ。
セントラル駅のホームで東部方面へ向う汽車を待ちながら、ロイは苦笑した。
最も記憶の中のは、十八歳の頃士官学校の教室で出会って以来、いつでも自分のペースを崩してくれる存在でもあった。
それは良い意味でも、悪い意味でも、ロイの歩いてきた道を彩る一要素になっている。
Act.2 First contact -5年前-
「なーに見てんだ?ロイ」
頬杖をついたロイの肩をヒューズの手が軽く小突いた。
「いや、この場にそぐわぬ美人がいるなと思ってな」
ロイは視線はそのままに顎先で軽く示した。
彼の視界の先には窓際の席でテキストに目を落とした銀髪の女がいる。最初はこの辺りでは珍しい髪の色に目を惹かれたが、そのうち彼女の驚くほど整った容姿に思わず魅入ってしまったのだ。
「ああ、あの銀髪の奴か」
ヒューズは彼女の方を見て納得したようだ。
「・つったかな?中央の将軍の娘だろ」
さすがに諜報関係の部署を志望しているだけに耳が早いなと、ロイが顔を上げると、ヒューズは心底不思議そうな表情をした。
「なんだ?」
ロイは怪訝そうに眉を寄せる。
「いや、お前のことだからとっくにチェック済みかと思ってたぜ」
「俺だって別に校内中の女子を把握してるわけじゃないさ」
いくらなんでもそれは無理だとロイは苦笑した。
彼らがこの士官学校に入学してからまだ二週間も経たない。ここは大学のようなカリキュラムをとっているためどの講義を取るかによって、その都度、教室も受講生も変わるのだ。
「・・・将軍令嬢か」
ロイがふむと顎に手をやると、ヒューズはにやにやとその顔を覗き込んだ。
「惚れたか?」
「さあな。だが魅力的なのも確かだ。今から中央に後ろ盾を作っておくのも悪くないな」
本気なのか冗談なのか判らないその表情にヒューズが嘆息すると、ちょうど教室に教官が入ってきた。
「」
戦術理論の講義が終わるなり、ロイは席を立とうとしているに声をかけた。
「良かったらこの後二人で食事しないか?」
聞きなれない声に顔を上げた彼女にロイはにっこりと笑んで見せた。一部の界隈で”女殺し”と言われる極上の微笑を向けられて頬を赤らめない女性はいない。
「随分といきなりね。名前も名乗らないつもり?」
だがしかし、彼女は頬を赤らめるどころか無表情にロイを見上げる。珊瑚色の唇から紡がれる声はその外見に見合った高すぎず低すぎない絶妙な音色を奏でたが、内容はあくまで冷たい。
「おっと失礼俺は・・・」
「ロイ・マスタング。セントラルの名門高等学校を主席で卒業。当時からそのプレイボーイぶりは有名。すでに士官学校内で複数の女子生徒の声をかけている」
僅かに笑顔を引きつらせたものの、めげずに名乗ろうとしたロイは今度こそ面食らった。は構わず視線を彼の更に後方へと向けた。
「大抵一緒にいるのは寮の同室者、マース・ヒューズ」
そこには二人のやり取りを見守っていたヒューズの姿。机に腰掛けた彼はと目が合うと軽く手を上げる。
「・・・・・だったかしら?」
「まいったな」
再び自分の方を見たにロイは苦笑する。
「情報収集は戦術の基本中の基本ですもの」
腰に手を当て嘆息したに、ロイがどうしたものかと思っていると、真後ろでヒューズが盛大に吹き出した。
「やれやれ色男もこうなっちゃ形無しだな、ロイ」
ヒューズは何がそこまで可笑しかったのか爆笑しながら歩いて来て二人に加わった。”笑うな”と顔に書かれたロイはさらりと黙殺する。
「ま、気悪くしないでやってくれ。そんな悪い奴でもねーからよ」
ヒューズは笑いながらの肩をぽんっと叩いた。
「別にそんな風に思ったりしてないわ」
ヒューズの人懐っこい笑顔に毒気を抜かれたか、はようやく表情を緩ませて笑顔を見せた。
「では改めて。・よ。でいいわ」
「ロイ・マスタングだ。ロイでいい」
「マース・ヒューズだ。俺もマースでいいぜ」
三人が簡単に自己紹介を終えると、新たに4人目の声が加わった。
「!」
三人が一斉に目を向ければ教室の入り口に金髪の青年が立っている。を呼んだのは彼らしい。
「今行くわ」
はロイとヒューズの間から顔を出して手を振った。
「・・・彼は君の恋人か?」
ロイは親しげなその様子に、あまり訊きたくないことを口にした。
「アレクはただの幼馴染よ。家が隣なの」
よく間違えられるのかの対応は慣れたものだ。クスクスと笑いながら机の上のテキストを脇に抱えた。
「・・・そうね。彼との先約があるから二人きりと言うわけには行かないけど、一緒に食べるなら別にいいわよ」
悪戯っぽく笑って見せたにロイとヒューズは一瞬顔を見合わせる。
「ああ、そうさせてもらうよ」
悩む必要は無かった。
そんな出会い方をしたためか、ロイ、ヒューズ、、そしてアレクことアレックス・レイアーの四人が打ち解け合うまでさほど時間はかからなかった。
to be continued
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