生きる事が幸福で 死すべきことが不幸であると
それは生きる事に意味を見出せなくなった人間にとって何よりも残酷な定義
戦場に散る最後の瞬間まで彼女がそう信じていたかは
今となってはもう知る術はない
Prologue -追憶-
高く澄んだ蒼穹で小鳥達が楽しげに遊んでいる。
木の葉を舞い上げる風は木枯しと言うにはまだ早いが、それでも何時の間にか肌寒く感じる程になった。季節は実りの秋を終え、そろそろ冬に移り変わろうとしている。
この時期特有のどこか物寂しい雰囲気がセントラルの街を包み始めたが、一年中そんな状態のこの場所には、いっそ季節すら無関係かもしれない。
「君もそう思わないか?」
白い百合の花束を抱えたロイは、ぽつりと呟いた。
彼がいるのはセントラル墓地の一番外れにある戦死者のための区画だ。
戦場で死んだ者は遺族の元へ遺体が返ってくることさえ稀なため、見渡す限りずらりと並んだ数千単位の墓標は、そのほとんどが主を持たぬ仮初のものにすぎない。
ここはそんな死者の魂を弔うより、残された者達の悲しみを慰めるためのどこか矛盾した場所だった。
東方司令部に大佐として勤めるロイも、毎年この時期だけは休暇を取り、こうしてこの場所を訪れる。
” ”
そう、彼女の名前だけが刻まれた空の墓標に花を手向けるために。
「もうあれから六年だ。早いものだな」
捧げた百合の花束の数だけ月日は流れ、彼女との距離は遠くなっていく。
「今でも思い出すことがあるよ」
ロイは空を振り仰いだ。
ああ、確かこんな美しい晴天の日だったはずだ。
彼女が死んだのは。
目を閉じれば硝煙の匂いや砲弾の音、そして最後の瞬間彼女の見せた凄絶なまでに美しい微笑を鮮明に思い浮かべる事が出来る。
そこにあったものを愛と呼ぶにはあまりにも儚い、どこか不可思議でさえあったあの半年間。
それはきっとロイだけが知る、幾千の命に埋もれてしまったたった一輪の花の、永遠に語られる事のない物語。
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