「・・・すごいわね、ここ」

"RUSH VALLEY”と書かれたアーチを抜けた瞬間目の前に広がった光景に、は思わず感嘆の声を上げた。

エドワードとアルフォンスは少し前にこの街を訪れているが、はダブリスで彼らに合流したため初めてだった。にわか景気の谷という名前のままに、街行く人々は活気に溢れどこもかしこも賑わっている。

人の多さで言えばセントラルの方が上だが、この場所はまたそれとも違い一種独特の雰囲気を持っていた。

「本当に機械鎧(オートメイル)のお店ばかりだわ」

が何よりも驚いたのは、立ち並ぶ数多の店や露店のほとんどが機械鎧(オートメイル)を扱う物であると言う事だった。さすがは機械鎧(オートメイル)技師の聖地と言ったところであろう。

「ここでウィンリィちゃんが働いてるのよね?」

「ああ、ガーフィールって人の店」

「そっか」

エドワードが言うとは嬉しそうに笑った。彼女がウィンリィと会うのはセントラルで別れて以来だ。楽しみと言いながら足を進める。


「・・・・・・」

エドワードは歩きながら何となくその後姿を見つめた。今のは、いつも通りのだった。

エドワードがアルフォンスとの事について話した後、その日は結局彼女に会わず終いだったが、翌朝、朝食時に起きてきたにあの不自然さは無かった。

ごく普通に微笑み、ごく普通に会話を楽しむ。あまりにも彼女らしすぎる自然な様子。

それが逆に引っ掛かりを覚えた。そしてエドワードは今までとなんら変わらないように見える彼女の微弱な変化に気付く。

あの日以来は、会話の途中やちょっとした仕草の合間に、ふいに何かを考え込むように表情が消える事がある。それは本当に僅かな、ごく一瞬の事で、よく見ていなければわからないほどだ。だが、それは少なくとも自分と会ってからの彼女には無かったものだ。

初めのうちは気のせいかとも思ったが、ここ数日一緒にいる間に同じような事は何度もあった。やはり、にその変化を与える決定的な何かが、デビルズネストでおこったのだろう。


(本当に何があったんだよ・・・)

その疑問だけがずっと胸につかえていたが、見た目はほぼ何の変わりも無い今のに聞くことは出来なかった。










第30話 東方の使者










「ウィンリィちゃんグラインダのディスク換えといて」

「はいはーい」

「これ片付けたら休憩にしましょ」

「はーい!」

声はしっかり男の物だが、なぜか女性的な言葉で話すガーフィールにウィンリィが元気よく返事をした。

細かな機材の入ったいささか重い箱を店の外に運び出し、通りがかった少年と挨拶を交わして一息つくと、耳に慣れた幼馴染の声が聞こえてきた。

「いよっウィンリィさん」

聴き間違えようの無いその声に振り向けば、エドワードとアルフォンス、そしてこちらはさらに久々なの姿があった。

「本日も良い天気でごきげんうるわしゅう」

一体どこから取り出したのか日の丸の扇子でぺしっと自分の頭を叩くエドワード。さらにはその後ろでアルフォンスが同じ扇子をかざしている。明らかにわざとらしい言葉を使うエドワードにはもちろん意図するところがある。この先に待っているであろう展開を予想して、は生ぬるい笑顔でそれを見守る事にした。

「エド!アル!それにさん!!」

お久しぶりですと言った感じの笑顔を向けられて、も微笑み返した。

「もー、本当にいつも連絡無しなんだからー。どうしたのよ急に」

なんだかんだと言いながら彼らの訪問が嬉しいらしい。ウィンリィが自分の方に向き直ると、エドワードは笑顔で右腕を指差した。もちろんグリードとの戦闘でズタボロになったあの機械鎧(オートメイル)をだ。

は満面の笑顔のまま凍りついたウィンリィの背後に、修羅か羅刹を見た気がした。







「ガーフィールさん屋根の修理終わったよー」

「あら、ありがとパニーニャ」

ガーフィールの店を嵐が通り過ぎた頃、日に焼けた小麦色の肌のパニーニャが窓からひょっこり顔を出した。

「にぎやかだけどお客さん?」

「そう、ウィンリィちゃんのお友達ですって」

「友達!・・ってぇとアルと・・・・・」

そう言われてパニーニャが思い浮かべるのは二人しかいない。

「・・・・・・・・エド?」

疑問系なのは震えているアルフォンスの足元に転がっているエドワードが、すでに原形を留めていなかったからだ。

「だった物体よ!!」

怒り心頭のウィンリィはスパナを片手に付け足した。







「あんたって本っっっ当に進歩しないわね!」

ウィンリィは涙ながらにエドワードの機械鎧(オートメイル)をテーピングして応急処置を施していく。

「こいついっつもこんななんですか?さん」

椅子に座って眺めていたは話を振られて苦笑する。その様子で納得したウィンリィは深く嘆息した。

「いくつになっても人の言う事聞かないし!子供かってのよ!」

「そう言うおめーは修行どうなんだよ」

話をそらそうとエドワードが言うと、ウィンリィは目を耀かせて設計図を取り出した。

機械鎧(オートメイル)に内蔵できるマシンガンの開発をしたわ」

「・・・なんか間違った修行してねぇ?」

子供みたいな美しい目で語るなとエドワードは呟いた。

「ダブリスの師匠の所で収穫あったの?」

「うーん・・・まぁな」

エドワードは思い出すように上向く。収穫と言えるかどうかはわからないが、それなりの成果はあった。

「遠回りだけど前に進んでる・・・かな」

「そ。ならいいわ」

ウィンリィは応急処置を終えると、ファイルを肩に当てて息をついた。

「前に進まないで腕壊しただけなんて言ったら、あと二、三発殴ってるところよ」

「まだ殴る気か・・・」

エドワードはじと目でウィンリィを見た。

「それで?次はどこに行って機械鎧(オートメイル)を壊す気?」

「壊すの前提かよ!!」

二人のやり取りをはクスクスと笑いながら見つめていた。


「中央軍部で調べ物しようかなと思ってんだ」

「えー!?セントラルに行くの!?あたしも行きたいなあ!」

「何しに行くんだよ?」

エドワードが不思議そうに言うと、ウィンリィはファイルを胸に抱きこむ。

「えへーヒューズさん家にお礼しに!」

以前エドワードの出張整備でセントラルを訪れた時、ウィンリィはヒューズの家に招かれた事があった。

「そうだ兄さん!ヒューズ中佐!」

「おおそうだ!オレも入院の時世話になったしあいさつしとかねーと」

「あ・・・でもあたし仕事が・・・」

話がまとまりかけたところでウィンリィは肝心な事に気付いた。

「いいわよぉ!ウィンリィちゃんこっち来てから休み無く働いてるもの、たまには息抜きしてらっしゃいな」

「ありがとうガーフィールさん!」

すると、ふふっと笑ったガーフィールにウィンリィはぱっと目を輝かせて礼を言った。

「じゃあ・・・・」

「みんなで行くか!」

「そうね!」

「うん!」

4人は一斉にうなづいた。どうやら行き先は決まったようだ。




「よし・・・と、チェックも終わり。部品の調達してくるから、その辺でヒマつぶしてて」

一通りファイルに印をつけてしまうと、ウィンリィはそれを片手に抱えて振り返った。

「ヒマつぶすってどーやって・・・・」

「あら、あたしが相手しててあげましょうか?」

、アル!!散歩行くぞ!!!」

何やらガーフィールが悩ましげな視線を向けたが、言い終えるよりも早くエドワードは二人の手を引いて脱兎のごとく店を飛び出した。











「・・・とは言ったものの、ここって機械鎧(オートメイル)の店ばっかでつまんねーんだよな!」

先ほど買ったジュースを片手に歩きながら、エドワードは退屈そうに辺りを見回す。

「そう?」

だが対照的にアルフォンスは鼻歌交じりに歩いている。

「アルはなんだか楽しそうね」

心なしか弾んでいるように見える足取りにが見上げると、アルフォンスは嬉しそうに言った。

「だってみんな全身機械鎧(オートメイル)と間違えてくれるからさぁ!正体がバレる心配なくて心置きなく散歩できるよ」

そう言いながらアルフォンスは羨望の目で自分を見てくる子供達に手を振った。

「・・・・・・なるほど」

それは確かに一理あるとエドワードは頷いた。普段街中でアルフォンスに向けられるのは好奇の目がほとんどだが、この街では全く逆の現象がおこる。そう言った分、アルフォンスにとってはある意味居心地のいい場所なのだろう。


「オレはー」

「お、お、お、おにいさん」

エドワードが何かを言い出そうとすると、不意に荒い息遣いの男が絡みついてきた。

「う、うちで修理してかない?安くしとくよ。ね、ね、ね」

「こーゆーのに狙われるからここは好かん!」

男の脳天に肘鉄を食らわせてエドワードは目をそらした。その背後では店の中から様子をうかがっていた数人が、ちっと舌を鳴らしている。

「大変ね」

「そーいうも、あんま調子よさそうじゃないけど大丈夫か?」

逆にエドワードは彼女に聞き返した。

「うーん・・・大分なれた気もしてたけど、やっぱりこの日差しは結構きついわね」

元々北部出身のは暑さに耐性が無く苦手だ。その上、特有の白い肌は紫外線の影響を受けやすいのだろう、あまり長時間炎天下にいれば火ぶくれを起こしてもおかしくはない。

「少しどっか店でも入って涼むか・・・・・ってアル?」

気付けば横にいたはずのアルフォンスがいない。二人が辺りを見回すと、彼は狭い路地の入り口にかがみこんでいた。

「何やってんだ?」

「兄さん・・・」

アルフォンスは振り返って何やらもじもじとしている。その様子にエドワードはピンときてジュースのストローを咥えた。

「・・・・・おまえがそんな態度してる時は、たいていネコか何か拾ってんだよな」

「うん」

だがアルフォンスが片手で持ち上げて見せたのは人間の男だった。思わずエドワードは口からジュースを吹き出す。

「行き倒れかしら?」

「そうみたい」

はアルフォンスの手から下ろされても、干からびたカエルのごとく地面にへばりついてぴくりとも動かない男を見下ろした。

「元の所に捨ててこい!」

「ひとでなし!!」

非常な事を言うエドワードにアルフォンスは軽くショックを受けたようだ。






「いやー生き返った行き返っタ!!あんた方命の恩人ダ!!ありがト!ごっそさン!」

結局エドワードはぶつぶつと文句をいいながらも男を連れて適当な店に入った。

すると料理が運ばれてくるや否や、今まで死んだように動かなかった男は脇目もふらずにかき込み始めた。そして勝手に追加注文すること数回。今や山のごとく積まれた食器に3人は揃って顔を引きつらせていた。

「・・・おごるなんて一言も言ってねぇし」

「小さい事気にしなイ!」

いつそう言うことになったんだと言うエドワードに、男は豪快に笑ってテーブルを叩いた。

「小さい言うな!!」

「異国で触れる人情・・・ありがたいねェ」

律儀にそこに反応するエドワードに、アルフォンスは”反応すんなよ”と呟いたが、男は気付かない振りをしてハンカチを目元に当てた。

「外国の人?少しなまりが・・・・」

アルフォンスはエドワードをなんとかなだめて男の方を見た。彼の語尾には独特のイントネーションがある。

「そう!シンから来た!」

「東の大国シン!」

「へー!こんな遠い所までもの好きな!」

アメストリスから遥か離れた国からやってきたと言う男に、エドワードも思わず身を乗り出す。

「砂漠を越えるの大変だったでしょう?」

「ああ、あの大砂漠には参ったねェ」

の言葉に男は苦笑すると適当に拾い上げた木の枝で地面に何かを描きはじめた。

「鉄道ルートが砂に埋まって仕えなくなってたからサ・・・」

どうやら図を使って説明しようと言う事らしい。自然と三人の目線は男の描く略式の地図に向けられた。

「馬とラクダを乗り継いデ・・・クセルクセス遺跡を中継するルートでやっとこの国に入れたのサ」

東の大国シンとアメストリスは国交を結んではいるが、交流はさほど盛んではない。それは、男の描いた地図に×印がついているとおり、かつて二つの国を結んでいた鉄道が砂漠化で閉鎖され、現在南回りの陸路を使うのはほぼ不可能だからだ。

そのため彼は、反対方向の北周りのルートを使ったらしい。

「大回りしてでも海路を使えば楽だったろうに」

アメストリスの四方を囲む国のさらに外側にある外海を使って諸外国から入国すれば、一ヶ月以上かかるが、その間ほとんど難所はない。わざわざ大変な道を使う事も無いだろうとアルフォンスは思った。

「ウンそれはそうだけど・・・クセルクセス遺跡を見ておきたかったかラ」

「クセルクセス?あそこ何も無いって聞いたけど?」

エドワードは頬杖をついてきょとんとする。

「”大昔に一夜で滅んだ”なんて伝説があるだけだよ」

「観光か?」

アルフォンスが補足するように言うと、エドワードはそんなところに何の用があるんだとばかりに眉を寄せた。

「ちがうよ調べもノ。この国の練丹術について調べに来タ」

「練丹術?」

「シン式の錬金術よ。最終行程の理論が少し違うらしいけど・・・確かそっちでは医療面に発展してるのよね?」

聞きなれない言葉にエドワードが目を丸くすると、思いがけずが説明をした。

「へェ。お姉さん詳しいんだネ」

すると今のやり取りで興味が沸いたのか、男はを見やった。


「かじった程度よ」

随分前に好奇心から少しだけ文献を紐解いた程度の知識だ。詳しいと言うほどのものではない。

「そウ。俺達の国では”練丹術”と言って医学方面に秀でた技術なんダ。この国は科学技術として特化してるんだっテ?」

「ああ。お国ガラってやつだな。うちは軍事転用が主だから」

エドワードは男の手から木の枝を借りると、先ほどの図に付け足し始めた。

「今も南のアエルゴ、西のクレタと国境付近で小競り合い絶えねーし、北は北で大国ドラクマがひかえてる。一応不可侵条約を結んでるけど天険・ブリッグズ山があるから攻めて来れないだけで、こっちも一触即発だな」

ほぼ取り囲むように敵対国家が存在するにもかかわらず、同盟も講和も結んでいないアメストリスはまさに砂上の楼閣だ。

「物騒な国だねェ」

「昔っからゴタゴタしてたんだけどさ・・・・・こんなに軍事に傾いてきたのは今のブラッドレイ大総統になってからかな」

エドワードが何とはなしに呟くと、隣に座るがブラッドレイの名が出た瞬間、僅か表情をこわばらせた。

・・?)

エドワードは眉を寄せた。

「あ、でもほら!この国も平和だったらシンみたいに大衆の役に立つ錬金術が発展してたかも知れないわ」

だがそれに気付いたは勘ぐられないよう、話しの流れをずらす。

「そうだ!君達の国の錬金術についてもっと詳しく知りたいな」

すると、アルフォンスが真っ先に声を上げる。

「・・・確かにそっちに興味あるな、医学に特化したってやつ」

の様子が引っかかったが、今この場で聞いても仕方ないだろう。そう考えたエドワードは折角なのでアルフォンスに便乗する事にする。

「へェ!ひょっとして君達錬金術師?」

「そう!オレはエドワード・エルリック、国家錬金術師だ」

エドワードは親指で自分をさす。

「ボクはアルフォンス・エルリック」

アルフォンスはちなみに僕の方が弟ねと付け加えた。

「私は。エドと同じく国家錬金術師よ」

は指差す変わりに微笑んだ。

「国家資格!いやぁ博識な人に会えてラッキーだなァ!」

男はそう言うと立ち上がって3人と握手を交わした。

「俺はリン・ヤオ!よろしク!」

「そんでほら、そっちさんの練丹術ってやつ?詳しく教えてくんないかな」

「それ無理。俺練丹術師じゃないかラ」

好奇心と期待の目で満ちたエドワードとアルフォンスはリンの言葉に思わずひっくり返った。ここまで思わせぶりな事をしておいてそれは無いだろう。

「術師じゃねーのに何を調べにこの国に来たんだよ!!」

なんとか身を起こしたエドワードの横ではアルフォンスが未だショックで倒れている。

「ん〜ちょっと探し物。君達なら知ってるかなァ」

リンは顎に添えた手をそのまま動かして頬杖をついた。

「賢者の石」

思わず3人の表情が固まった。

「すっごく欲しいんだけド、知らないかナ?」

その様子に確証を得たリンはうっすらと目を開いた。

「さぁ、知らねぇよ。お互いもう用は無いな、じゃあな」

余計な事をつつかれる前にエドワードは素早く踵を返そうとした。だが、

「おと・・・ちょっと待ってちょうだいヨ」

「!!」

リンがパチンと指を鳴らした瞬間、エドワードは首に、アルフォンスは鎧の隙間に、それぞれ刃を突きつけられた。

「君達何か知ってる風だネ。教えてくれないかナ」

二人の背後を取ったのはどちらも黒装束に身を包んだ仮面の人物だ。

「・・・・・・・・賢者の石を手に入れてどうする?」

エドワードが片眉を吊り上げると、リンはにっと笑った。



「不老不死の法を手に入れル!」





to be continued





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あとがきという名の言い訳 vol.30

第4部突入で、ようやくシン組登場です。

とりあえず思ったのは、パーフェクトガイドブック2買っといてよかったと・・・
本編中の鋼世界に関する嬢の知識は十中八九資料から来てます(苦笑)

ちなみにやたらと兵法関連に詳しいのはシンに関する文献を漁ってた時になんとなく覚えた〜というようなどうでもいい裏設定があったり。おそらく嬢の雑学的知識だけで、某番組が開けますね(笑)