中央司令部。

アメストリス全土の軍事を統括するその建物はまさに堅牢にして重厚。正面門にかけられた二枚の大総統紋章旗が否応無しに訪問者を威圧する。

アームストロングと別れたはそんな建物の一角にある通信室にやってきていた。電話交換手にコードと所属部署を継げて受話器をとる。

(あの人にかけるのか・・・・)

はダイヤルを回しながら小さくため息をついた。電話先はもちろん東方司令部である。










第16話 賢者の石










「こちら、東方司令本部所属少佐です。マスタング大佐に取次ぎを」

がそういうと受話器の向こうの電話交換手に”お待ちください”と告げられた。回線を本部につなぐ間の沈黙が妙に長く感じられるのは自分が緊張しているせいだろうか。



「私だ」

プツリという音が聞こえ、ほどなくして聞こえてきたロイの低い声。

「御忙しいところに失礼します。セントラルに到着しましたのでご報告を」

「ああ、電話交換手がセントラルからだと言うから少し驚いた。怪我のほうはどうした?まだ出発して一週間もたっていないだろう」

「いえ、それが・・・・治りました」

「何?」

ロイの声が怪訝そうに変わる。それも当然だ、どう考えても一週間やそこらで治る怪我ではなかったのだから。

「リゼンブールにたまたま錬金術師の医師が滞在していまして・・・」

少々心苦しくもあるが、ここは嘘も方便だ。まさかマルコーとあったなどと正直に言えるわけが無い。

「・・・そうか、なら良かったな」

「はい、ありがとうございます・・・」

(まずい・・・ちょっと不自然だったかも)

微妙なロイの沈黙がどうにも気になる。頭の切れる彼のことだ、何かしら勘ぐっていることだろう。は内心ヒヤヒヤしていた。

「ところで、エルリック兄弟はどうした?」

「中央図書館に行くとの事でセントラル駅で別れましたが、今はそちらにいるかと思います」

「護衛はついているのか?」

「はい、アームストロング少佐の部下が2人」

「2人か・・・」

「大佐?」

何か思案しているように声の聞こえなくなったロイ。はどうしたんだろうと眉を寄せた。

「ああ、すまない」

「いえ、それでこの後なのですが、私は東方司令部に戻ってよろしいですか?」

「・・・いや、そのままエルリック兄弟が滞在中セントラルに残ってもらいたい」

「え?」

ロイの回答は、てっきり早く戻れと言われると思ったの意表をついたものだった。

「あの一件以来スカーの目撃情報はまだないが、東部に潜伏していると考えている。警戒が強まっているからセントラルに現れる可能性は低いが、それでも一般兵の護衛だけでは心許ないからな。エルリック兄弟の護衛兼安全策だ」

「安全策?」

「ああ、彼らと・・・・それから君のためのね」

「私もですか?」

「もちろんだ」

ロイの声が楽しげにワントーン上がる。

「”貸し”を返してもらう前に命を落とされては元も子もないからな、少佐?」

「・・・・・」

「どうした?」

「い・・・いえ、了解しました。エルリック兄弟がセントラルを離れる際にはまた連絡いたします」

「ああ、ではな」

「はい」

そこで電話が切れたのを確認して、は受話器を置いた。なんだかどっと疲れた気がする。一体あの男はどこまで本気でどこまで冗談なのだろうかとは心底思った。












「焼失事故!?」

「ええ、つい先日不審火で・・・」

中央司令部を後にしたはエドワード達に合流すべく、第一分館に赴いた。
しかし、そこにあったのはすでに瓦礫の山と化した無残な建物の姿。仕方なく、本館で話を聞いたところ、司書から返ってきた返事に驚愕するハメになったのである。

「・・・そうですか。それでその後エルリック兄弟がどこに行ったかご存知ですか?」

あ、はい。以前、第一分館で働いていた子の家に行かれましたよ。住所お教えしますか?」

「そうですね、お願いします」




(まさかこんなことになるとはね・・・エドワード君達ショックだろうな)

本館の外の階段を下りながら、は司書の女性に渡された一枚のメモに目を向ける。

(シェスカさん・・・女の人か。家はこの近くみたいだけど追いつけるかな・・・)

にはエドワード達との間に結構なタイムラグがある。これで行き違いになってしまえばもう一度中央司令部に戻って、ロスたちが戻ってくるのを待つしかない。

「あ、少佐!」

と、がそんなことを考えながら歩いていると、突然声がかけられた。

「ブロッシュ軍曹」

振向けば、少し離れた位置に止まった車からブロッシュが走りよってくる。

「ああ、やっぱりここにいらしたんですね!司令部に戻ったらこちらに行かれたとお聞きしましたので、お迎えにあがりました」

「わざわざすみません。今から捜しに行こうかと思っていたんですよ」

ありがとうとは笑顔を向ける。するとブロッシュは何故か赤面してあたふたとしだした。

「?どうかしましたか・・・?」

「え・・・あ、いや・・・すみません!!では、あちらに車を待たせてありますので。エドワードさん達はこの近くのホテルにいらっしゃいますよ」

ブロッシュは不自然に慌てて踵をかえすと、を車まで案内する。



「驚きました、第一分館があんなことになっていたなんて・・・エドワード君達、かなり落ち込んでいませんでしたか?」

車が走り出してからは向かいに座るブロッシュに話し掛ける。

「そうですね、でもどうやら解決の糸口が見つかったようですよ?」

「え?」

「なんでも、先ほど会ったシェスカという女性が、資料の内容を全部覚えているとかで・・・複写を頼まれていました」

「資料の内容を全部・・・・ですか?」

信じがたいと言う表情のに、ブロッシュも頷いた。

「私も信じがたいんですが・・・一字一句間違えず暗記してるとかで・・・」

「一字一句間違えず・・・・」

一体どういう記憶力を持っているんだろうととブロッシュは首をひねったが、とりあえず出来てみなければわからないと言うことで納得した。

「ところで少佐はしばらくこちらに滞在されるのですか?」

「ああ、まだ言ってませんでしたね。はい、エドワード君たちがセントラルに滞在中私も一緒に護衛を勤めることになりました」

話題を切り替えたブロッシュに、がそう返すと彼は嬉しそうに笑った。

「そうだったんですか!」

はい、しばらくの間よろしくお願いしますね、ブロッシュ軍曹」









「エドワード君、アルフォンス君」

「「少佐」」

ブロッシュに案内された部屋にが訪れると、ソファーに座っていた二人が振向いた。

「遅くなってごめんね、大変だったでしょう?」

「いや、でもなんとかなりそうなんだ」

「うん、ブロッシュ軍曹から大体の話は聞いてるわ」

は言いながらソファーの近くまで移動する。

「よかったね」

「ああ!時間はかかるみたいだけど、あきらめかけてたからな」

助かったぜとエドワードは笑みを浮かべる。


少佐は、もう東部に帰ってしまうんですか?」

ふいにアルフォンスが聞いてきた。

「そのことなんだけどね、君達がセントラルにいる間、私も一緒に護衛を引き受けることになったわ」

「護衛?少佐が?」

意外な言葉にエドワードはを見上げた。

「そう。私もてっきりと呼び戻されるとばかり思ってたんだけど大佐がね・・・・」

「ったく・・・いつものことだけど何考えてんだかわかんねーからな、大佐の奴!」

けっ、と両手を持上げたエドワードにも苦笑を漏らす。

「でもまあ、その分君達と一緒にいられる時間が延びて私は嬉しいけどね。またしばらくよろしく」

「僕達もですよ、ね、兄さん」

「ああ」

ありがとうとつぶやいては瞳を優しく細めた。なんだかこの2人のさりげない言葉が妙に嬉しい。

「じゃあ、私フロントで宿泊の手続きとって来るわ」

「少佐もここに泊まるのか?」

「うん、そっちの方が楽だしね」

そういい残しては部屋から外に出た。その後姿をいつまでも眺めているエドワードに気付いてアルフォンスが笑いながら言った。

「兄さん少佐の笑顔に弱いよね」

「ば・・・何言ってんだ・・・違げーよ!!」

エドワードは沸騰したかのごとく赤くなってアルフォンスを睨んだのだった。












「いやぁ、すみません。かなりの量だったもので写すのに5日もかかってしまいました。ティム・マルコー氏の研究所の複写です」

5日後、そう言ってシェスカが机の上にドサドサと並べた書類の量、およそ部厚い百科事典数十冊分。

「・・・・嘘・・・」

「・・・・・本当にやった・・・・・」

「世の中にはすげー人がいるもんだなぁ、アル・・・・・・・」

順に、アルフォンス、エドワード。さらにその後ろに立つブロッシュとロスも合わせ、5人は文字通り開いた口がふさがらない。

「うわぁ・・・・そうかこんなに量があったんじゃ、これ持って逃亡は無理だったんだねマルコーさん」

「これ本当にマルコーさんの?」

「はい!まちがいなく」

期待の目で見るアルフォンスとエドワードに、シェスカは自信たっぷりに頷く。

「ティム・マルコー著の料理研究書、”今日の献立一〇〇〇種”ですっ!!」

そしてその一言に、部屋の空気が凍りついた。




「”砂糖大さじ1に水少々を加え・・・・・”本当に今日の献立一〇〇〇種だわ・・・」

複写された研究書を数枚めくって、ロスはげんなりと呟いた。

「君!これのどこが重要書類なんだね!!」

「重・・・!?そんな!私は読んだまま、覚えたまま写しただけですよ!?」

ブロッシュに怒鳴られて心外そうにシェスカが言った。

「と言うことは同姓同名の人が書いた全く別の物!?お二方これはムダ足だったのでは?」

「あら、ブロッシュ軍曹そんなことないですよ。ね、エドワード君?」

あきれたように額に手をやるブロッシュに、研究書の文字を目で追っていたが言う。

「ああ、少佐の言うとおりだ。これ本当にマルコーさんの書いたもの一字一句まちがい無いんだな?」

「はいっ!まちがいありません」

同じように研究書を見ていたエドワードが顔をあげるとシェスカは大きく頷いた。

「あんたすげーよ。ありがとな」

その答えにエドワードはにっと笑うと、研究書の束を持上げた。

「よし!アル、これ持って中央図書館に戻ろう!」

「うん、あそこなら辞書が揃ってるしね」

「ああ、じゃあ私も運ぶの手伝うわ」

アルフォンスともそれぞれ両手に束を持つ。

「−っとお礼お礼」

エドワードは扉の所まで行きかけて、慌ててコートの裏のポケットに手を突っ込むと、手帳を取り出し何かを書き始めた。

「ロス少尉!これオレの登録コードと署名と身分証明の銀時計」

そして、書いた部分を切り取って銀時計と共にロスの手に乗せる。

「大総統府の国家錬金術師機関に行って、オレの年間研究費からそこに書いてある金額引き出してシェスカに渡してあげて」

「はあ・・・」

「シェスカ、本当にありがとな。じゃ!」

ロスが頷くのを見届けるとエドワードは去り際に大きく手を振って外に出ていった。


バタンと音をたてて扉が閉まった後、残された2人はエドワードの残したメモをなんとはなしに見つめる。

「キャーーーーー!!なんですか、この金額!!」

「こんな金額ポンと出すなんてなんなのあの子!!」

そこに書かれたとんでもない金額に、二人が大絶叫したことは言うまでもない。










「”錬金術師よ大衆のためにあれ”・・・・って言葉があるように錬金術師は、術がもたらす成果を一般の人々に分け隔てなく与える事をモットーにしている。けど、その一方で一般人にそのノウハウが与えられることを防がなければならないんだ」

中央図書館に戻ってきたエドワードはその一室でブロッシュに説明しながら、集めてきた辞書を机の上におく。

「ああ、なるほど。無造作に技術をばら撒いて悪用されては困りますね」

「そういう事。で、どうやってそれを防ぐかってーと・・・錬金研究書の暗号化だ。一般人にはただの料理研究書に見えても・・・その中身は書いた本人しか判らない様々な寓意や比喩表現で書き連ねられた高度な錬金術書って訳さ!」

言い終えるとエドワードは椅子に座って、さっそく解読をはじめる。

「書いた本人にしかわからないって・・・・そんなのどうやって解読するんですか?」

「知識とひらめき、あとはひたすら根気の作業だな」

「うわ・・・・気が遠くなりそうですよ」

「でも料理研究書に似せてる分まだ解読しやすいと思いますよ」

その多大な労力を想像してブロッシュがげんなりとすると、アルフォンスが振向いた。

「錬金術が台所から生まれたって言われるくらいですしね」

「そうそう。兄さんの研究手帳なんて旅行記風に書いてあるからボクが読んでもさっぱりで」

がそうつけたすとアルフォンスは頷いた。

「へぇ・・・・人によって暗号化の仕方もそれぞれなんですね。あれ、では少佐はどんなふうに書かれてるんですか?」

「見てみますか?」

は胸元のポケットから小さな手帳を取りだすとブロッシュに手渡した。すかさずアルフォンスとエドワードも横から覗き込む。

「「「・・・詩集・・?」」」

「はい」

そこに書かれているのは、難解な言葉を連ねたいくつもの短文。三人の声が重なるとはにっこり答えた。

少佐らしいな」

「そう?」

どこがだろうとが首をかしげていると3人は苦笑する。


「さて!!さくさく解読して真実とやらを拝ませてもらおうか!!」

エドワードは再び椅子に座るとそう意気込んだのだった。












「ロス少尉、ブロッシュ軍曹!」

中央図書館の入り口に立っている二人を見つけたはそう呼びかけて歩いてきた。

少佐」

その存在に気付いた二人が振り返ると、は軽く手を振った。

「資料の方は見つかりましたか?」

「いえ、他の分館の方にはめぼしい物が無かったので戻ってきました」

「それは残念でしたね・・・お疲れ様です」

エドワード達がマルコーの研究書の解読をはじめて今日で一週間になる。しかし、それは遅々として進まず、は部屋にこもりっきりの二人の代わりに、資料集めから戻ってきたのだった。苦笑した彼女にブロッシュも肩をすくめる。

少佐、少し休まれてはいかがですか?護衛以外の時間はほとんど解読の手伝いをされているじゃないですか・・・体壊しますよ」

「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ?」

心配そうに言うブロッシュには笑いかけた。綺麗な碧の瞳が優しい光を灯すその表情に、彼は思わずドキリとする。その横でロスが盛大にため息をついた。

「では、私もまた上に戻ります」

そんなことに気付きもしない本人はくるりと軍服の裾を翻して、螺旋階段の上に消えていった。




「なーに見惚れてんだ、ブロッシュ軍曹」

の姿が見えなくなった後もぼーっとしているブロッシュの背後から突然そんな声がかけられる。

「「ヒューズ中佐!?」」

驚いたブロッシュとロスが慌てて敬礼すると、ヒューズはよっと軽く手をあげた。

「ぃぃぃぃいつから、いらしたんですか!?」

動揺しまくりのブロッシュにヒューズはにやりと笑って見せた。

「強いて言うならお前がの笑顔にぼーっとしたあたりからかな?」

「あー・・・もう、ヒューズ中佐からも何か言ってやって下さい!少佐といるといつもこうなんですよ、彼!!」

「ろ・・・ロス少尉!!」

ロスが呆れたように言うとヒューズは小さく口笛を吹いた。

「なんだなんだ、ブロッシュ軍曹。お前もの奴に惚れたか?」

「ええっ!!!・・・そ・・・そんな!!」

ブロッシュは真っ赤になって慌てて両手を振る。

「ま、アイツの笑顔は確かに男にとっちゃグッと来るもんがあるよな。東方司令部でもアイドル状態らしいが・・・アイツは手強いぜ?」

ヒューズはどんどん赤くなるブロッシュを面白がりながらその肩にぽんと手を置いた。

「なんつったって天下の焔の錬金術師、ロイ・マスタング大佐のお気に入りだからな。手なんか出した日には・・・お前消し炭決定だな」

「いやだから・・・・って、お2人はそんな関係だったのですか!?」

「さぁてな?ま、がんばれや、青年!!はっはっは!!」

「そ・・・そんな・・・」

本人が聞いたら本気で怒りそうなことを勝手に言ったヒューズは、それは楽しそうに笑った。その後ろではブロッシュがショックに打ちひしがれている。

「・・・で、ヒューズ中佐・・・・何か用があっていらしたんじゃないんですか!?」

これだから男って生き物はと、ロスは痛むこめかみを押さえてヒューズに言う。

「おう、そうだった。とエド達に会いに来たんだよ」

「そうですか、彼らなら二階の一番奥の部屋にいますよ」

「一番奥だな。わかった、んじゃ後でな」

ヒューズはそれだけ言い残すと、と同じく螺旋階段をのぼっていった。

後に残されたのは床にうずくまってなにやらぶつぶつといじけているブロッシュと、それを呆れた目で見守るロスの二人であった。






「よっ」

二階に移動したヒューズは言われた部屋のドアを開けると軽快に手をあげた。

「「「ヒューズ中佐!」」」

「アームストロング少佐に聞いたぞ。なんだよ、お前らセントラルに来たら声かけろって言ったのによー」

ヒューズは中に進んでいくと、エドワード達の向かいの椅子に腰掛ける。

「いやぁ、急ぎの用があってさ」

エドワードは一旦ペンを置いて苦笑した。

「まぁ、俺も忙しくて持ち場を離れられなかったんだけどよ・・・」

ヒューズは言いながら机の脇で辞書を片手に佇むに目を向けた。

「そういやお前、怪我どうした?」

「え?ああ、腕のいいお医者さんに会えましてね。すっかり治りました」

は余計な勘繰りをされないように即座に笑顔で返す。

「おう、そりゃ良かったな!・・・にしても、お前罪作りな女だな」

「はい?」

は怪訝な顔をしたが、ヒューズはパタパタと手を振った。

「あーいい、いい、こっちの話だ」

はあ、とは腑に落ちないまま頷いた。

「ところで、ヒューズ中佐。仕事が忙しい中をわざわざ会いに来てくれたんですか?」

「いや、息抜きついでだ気にすんな。すぐ持ち場に戻る」

アルフォンスが言うとヒューズは笑って見せた。

「ま・・・ただでさえ忙しい所に第一分館も丸焼けになっちまってやってらんねーってのが本音だけどな」

「第一分館?」

エドワードは不思議そうに言って頬杖を着いた。

「ああ。軍法会議所に近いってんで、あそこの書庫にゃあ過去の事件の記録やら名簿やら保管してたからよ。業務に差し支えて大変だよ」

「へーーーーー・・・・・」

ため息をつくヒューズの言葉に頷きながら、エドワード達の視線はぼーっと佇んでいたシェスカに向けられた。

「えーーーーーーーーー!?」

シェスカは自分に集まる視線に気付いて驚きの声を上げた。



「え?この嬢ちゃんそんなすごい特技持ってんのかよ!?そりゃ助かる!」

エドワードがこれまでの話をするとヒューズは驚いて立ち上がった。

「たしかに軍の刑事記録も読んで覚えてますけど・・・・」

「どうだろう中佐、この人働き口さがしてんだけど」

エドワードは思いがけない展開に焦るシェスカを示して言う。

「よっしゃ今すぐ手続きだ!!うちは給料いいぞぉ!!」

「ええ!?そんな、あの・・・本当に!?」

それを聞いたヒューズは瞬く間にシェスカの首根っこを掴んでドアまで引きずって行く。

「あっ・・・あの、お二方!ありがとう!自信持って私がんばって観ます!本当にありがとう!!」

そう言ったのを最後にヒューズに連れ去られたシェスカに、残された3人は苦笑して手を振った。


「”何かに一生懸命になれるって事はそれ自体が才能”か。いうねぇ弟よ」

「どっかの誰かさんを見てるとね、心のそこからそう思うよ」

先ほどアルフォンスがシェスカにかけた言葉を思い出して、エドワードは揶揄するように笑うとペンを取った。

「へへっ、そんじゃそのどっかの誰かさんは、引き続き一生懸命やるとしますよ」








さらに3日が経過した午後5時、中央図書館に閉館時刻を告げる鐘が鳴り響く。

「今日で丸々10日・・・収穫無しのようね」

何時も通り、エドワード達がいる部屋の前の廊下に座っていたロスはため息をついて立ち上がる。

「お二人とも閉館の時間ですよ」

そう言ってブロッシュがドアを開けると突然エドワードの怒鳴り声が響いた。

「・・・・・・ふっ・・・・ざけんな!!」

同時にあがる椅子が倒れる音と、机の上の辞書が落ちる音。

「なっ・・・何事ですか!?」

驚いた2人が部屋にはいると、エドワードは机に手をついたまま肩を震わせており、その向かいではアルフォンスが暗鬱とした面持ちで座っている。

「兄弟喧嘩ですか?まずは落ち着いて・・・・」

「ちがいますよ」

喧嘩だと思い込んで仲裁に入ろうとするブロッシュに、アルフォンスはただ一言だけ返した。

「では暗号が解けなくてイラついてでも・・・?」

「いいえ」

ロスがそう言うと聞こえたの声。自然とブロッシュの視線もそちらに向く。

「暗号を解いてしまったんですよ、全部ね・・・」

は険しく眉を寄せたまま、静かに散らばった資料を拾い集める。

「本当ですか!?良かったじゃないですか!!」

「良い事あるか畜生!!」

エドワードはブロッシュの言葉に苛立たしげにはき捨てて、ドカっと床に座り込んだ。

「”悪魔の研究”とはよく言ったもんだ。恨むぜマルコーさんよ・・・・!」

エドワードは苦々しげに額を押さえる。

「・・・・いったい何が?」

その様子に、ブロッシュは息を呑んで尋ねた。

「賢者の石の材料は・・・・」

ぎりっと歯を噛み締めてエドワードは唸るように声を絞り出した。




「生きた人間だ!!」





to be continued





next





あとがきという名の言い訳 vol.16

第二部エルリック兄弟サイド、初っ端から話が重くなりました(苦笑)
賢者の石関係の話って原作の方でもかなり暗いですよね・・・;軍部サイドとは違い、セントラル編が終わるまではしばらくこんなかんじの話が続きます・・・