俺の耳に聞こえてくるのはカチカチという単調な音だけ。

時計の音にも似てるが実際は進む時間を知らせるためじゃなく、残り時間を刻むための音だ。

俺はこの部屋に放り込まれてから、ただずっとそれ、要するに時限爆弾とにらっめこしてる。隣にはがいるが彼女は生憎と気絶したままなので話し相手には出来ない。

そりゃ、最初は何回か起こそうとしてみたけど、そのうち無駄だと気付いてやめた。で、さっきからこの状態が続いてるわけだ。

普通、こういった状況に陥ったら慌てたりもするんだろうが、何故か俺はそうする気にはなれない。慌てたところで何にも変わらないからだ。ま、どうにかなるときは、どうにかなるもんだし、駄目な時は何をやっても駄目なもんだ。




(煙草吸いてぇ・・・・)



俺はただそう思った。
















MISSION 
-Royal straight- 後編















「・・・ぅ・・・」

俺が壁に寄りかかってると、が小さくうめいて目を開けた。

「おはよーさん」

俺はそれに気付いてごくふつーに声をかける。すると、がこっちを向いた。

「・・・ジャン?」

「おぅ。大丈夫か、?」

俺たちはもうコードネームは使わない。あたりまえだ、さっきの時点でバレてんだから。わざわざあんな歯の浮くような名前で呼び合う程酔狂じゃない。

「とりあえずはね」

彼女は苦笑して、背筋の力だけで体を起こした。俺も、彼女も両手足を縛られてるから、当然そうでもしないと起き上がる事すら出来ない。は起用に身を捩って、俺の隣の壁に寄りかかった。

「あなたこそ、ちょっと見ないうちに随分と男前が上がったわね」

は俺の顔の至る所にある痣に気付いたらしい。俺は彼女みたいに気絶こそさせられなかった物の、この”特別室”とやらにつれてこられた時に文字通りそれは手荒い歓迎を受けた。それでこのザマだ。

「惚れたか?」

「まさか」

即答。俺は苦笑する。顔の筋肉が引きつるせいで、傷が痛んで顔をしかめた。



「それにしても、とんだ特別室ね」

「だな」

俺たちの居る部屋は別段広くも狭くも無い。地下なのは間違いないだろうが、とりあえず何も無い部屋だ。ああ、あるものといえば一つだな。

「で、アレがあいつらの置き土産ってわけ?」

は興味なさそうに爆弾を一瞥した。

「”ゆっくりと死の恐怖を味わって絶望のうちに死んでいけ”だとよ」

「悪趣味ね。何十年前の悪役の台詞よ、ソレ」

俺が爆弾を置いていった男の声音を真似て言うと、は鼻で笑った。つられて俺も吹き出した。彼女の毒舌はこう言うときでも変わらない。

「でもまあ、爆弾にタイマーがついてるのは好都合ね。ジャン、あれが何分後にセットされてるか分かる?」

「ああ、40分後だ。ついでに言うと、俺がここに来る前に時計を見た時は9時50分くらいだったぜ」

「・・・ってことは、今は大体、10時10分前後って事か・・・」

爆弾のタイマーの残り時間は後20分くらいだ。は単純な逆算をする。

「で、どうするよ?」

「10時半になっても私達から連絡が無い場合、非常事態として11時に小隊が突入することになってるわ」

「けど、俺らの正体に奴ら気づいてんだろ?もう証拠隠滅してんじゃねーか?」

つかまった時に奴らは俺の本名を知ってた。当然、俺たちが軍人だって事も調べてあるだろう。

「確かにそうでしょうけど、私が見つけた麻薬の袋は見ただけで数十キロはあったわ。アレ全部運び出すには結構時間がかかるでしょ、上手くいけばまだ間に合うわ」

「んじゃ、俺らのやる事は一つだな」

つまりは、証拠の麻薬を一袋でも確保できればこっちの勝ちって事だ。

「殺すだけの人質を無駄に長生きさせたのが運の尽きね」






「さてと、そうと決まったらまずコレを何とかしなきゃね」

「そだな」

俺は自分の足を縛り付けてるロープに目をやった。これを何とかしない限り、脱出どころか立ち上がることすら出来ない。

「けど、どーすんよ?」

「ジャン、ちょっと後ろ向いて」

「あいよ」

に言われたとおり俺は膝を使って彼女に背を向けた。すると、彼女は身をかがめて、俺の手のロープに顔を近づける。

「・・・噛み切る気か?」

「それしか無いでしょ」

俺が背中越しに見る中、はロープに噛み付いて、なんとか切れ目を入れようと口を動かした。

「んぅ・・・」

俺は思わずその光景を食い入るように見てしまった。両手足を縛られたが苦しそうに顔をゆがめて、口を動かす姿が何となく別の想像を掻き立てる。しかも、たまにくぐもった声を漏らすもんだから俺は無意識に呟いてしまった。

「・・・なんか、こう言う状況じゃなかったら、そーいうお前の姿ってのもそそられるんだけどな」

けど、口にした瞬間が顔を上げて俺を睨みつけた。

「指、噛み切られたい?」

「・・・スミマセン、冗談です」

俺は一瞬で血の気が引いて前を向いた。








「ふぅ、これで動けるわね」

は縄の跡がついた手首を片手でさすりながら小さく背伸びした。

彼女が俺の手の縄を噛み切った後は、もう簡単だった。俺が自分で足の縄を解いて、彼女の縄も解いた。

「けど、あともうそんなに時間無いぜ?」

縄を解くのに結構な時間を食ってしまったため、残り時間はもうすぐ10分を切ろうとしていた。

「そうね、とっとと、このシケた部屋から脱出しないと」

俺とは部屋を見回す。扉は鉄製で当然頑丈に鍵がかかってるから使えない。


「・・・お、、アレなんかどうだ?」

俺は天井近くの通風孔を見つけて指差した。









「どうだ?」

「んー・・・そうね、なんとか行けそう」

は俺の肩に乗って、蓋を外した通風孔の中を覗き込んでる。俺の体格じゃ無理だが、細身の彼女なら何とか通れる程度の大きさはある。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ。外から開けるまでここで待っててもらうことになるけど」

「ま、仕方ねぇだろ、こればっかりは」

俺はを肩にかついだまま苦笑した。

「頼んだぜ」

「安心して、万一の時は墓前に煙草くらい添えてあげるから」

彼女は通風孔に手をかけると、振り向いてそう言った。

「・・・そりゃどーも」

いかにもらしいその言葉に俺は一瞬笑みをひきつらせた。











(せまいわね・・・)

通風孔の中を匍匐前進しながらは内心毒づいた。なんとか部屋からは出れたものの、この狭さになかなか思うように進む事が出来ない。部屋を出た時、タイマーの残り時間はすでに10分を切っていた。
ああはいったものの、さすがにハボックを見殺しには出来ない。

(とにかくどこかに出ないとね)



そう思って進むうち、ようやく目の前に明かりが漏れる通風孔の出口が見えた。どうやら、ここは天井裏らしく、そこから下を除くと、銃を持った男が廊下を行ったりきたりしている。


(見張りは一人か・・・いちかばちか、やるっきゃないわね)


通風孔の真下を男が通り過ぎた瞬間、は蓋を蹴落として床に飛び降りた。

「てめっ・・・」

物音に気付いて男が銃を構える。だが、は構わずその懐に潜り込み身を沈めて男の鳩尾に拳を叩きつけた。

「ぐっ・・・」

の全体重をかけた一撃に、男はくぐもったうめきをあげてその場に崩れ落ちる。

「借りるわよ」

彼女は冷たく言い放つと、男の持っていた銃とマガジンを身に付ける。ついでに懐をあされば小型のナイフが三本入ったホルスターも見つかった。

「上等ね」

思わぬ収穫にほくそえんで、ホルスターごと取り外して肩に背負うと即座に走り出した。

(間に合ってよっ・・!)


通風孔の中を移動したのは大した距離ではない。たどってきた道筋を戻るのにさしたる時間はかからなかった。

(ドアの前にも一人か・・)

はハボックのいる部屋のドアがある通路の角から様子を伺う。先ほどと同じようにやはり銃を持った男がその場に立っていた。

(あんま、こう言う手は使いたくないけど)

小さく息をついたものの、迷っている暇は無い。先ほど奪ったホルスターからナイフを一本抜き取り、そのまま廊下に飛び出した。そして男が振り向いた瞬間、ナイフを投げつける。

「!」

ナイフは男の額に突き刺さる。確認するまでも無く即死だ。

「悪いわね」

は小さく呟いて男の額からナイフを抜き取る。この先に何があるか分からない以上、武器を減らすのは得策では無い。

そうしてから男のポケットを探ったが、鍵らしい物は持っていない。は舌打ちして立ち上がるとドアに向かって声を上げた。

「ジャン!ジャン、聞こえる!?」














タイマーの残り時間がついに3桁を切った。俺は何となくそれを他人事のように見てる。


さすがのも今回ばかりは間に合わなかったか。まあ、だからと言って、恨んだりはしない。俺に運が無かった、それだけの事だ。

「最後に一本くらい吸いたかったんだけどな」

俺はそんな事を呟いて上を見上げる。ライターは取り上げられちまったらしく、煙草はあっても火をつけれなきゃ意味が無い。なんともシケたもんだ。

人間の最後なんて案外こんなもんなんだろーな、と俺が思ったとき、突然ドアの外からの声が聞こえた。

「ジャン!ジャン、聞こえる!?」

!?」

俺は驚いてドアに駆け寄った。

「ジャン、よく聞いて。鍵が無いから今から何とかしてあけるわ」

「何とかしてって・・・・・後40秒もねーぞ!?」

俺はタイマーに目をやって叫んだ。

「40秒あれば十分よ、いいから開けたらすぐに逃げられるようにして」

「わ・・・わかった」

俺が返事をした直後、銃声が聞こえた。

っ!?どうした!?」

「奴らに見つかったわ、早くしないと増援が来る」

ドアの外から聞こえてくる彼女の声はどこまでも冷静だ。けど俺は、残り時間が20秒を切ったのを見て思わず叫んでいた。

「っ、!いいからお前逃げろ!そこで奴らに囲まれたら逃げ切れねーぞ!!」

「馬鹿な事言ってんじゃ無いわよ!!」

後20秒じゃどう考えたって助かりっこない。けど、逆に俺がに怒鳴られた。

「ここであなたを死なせたら誰があの重い麻薬の袋運ぶと思ってんのよ!?か弱い乙女にそんなことさせるつもり!?」

(誰がか弱いって?)

の言い草に俺は一瞬目を丸くした。ひでぇ言われようだなと俺が笑うと同時に、ドアが開いた。同時にタイマーが一桁になる。

「これ、持って!行くわよ!!」

「了解!」

が本当にドアを開けちまったことに驚いたが、とにかく今はそれどころじゃない。彼女から渡された銃を持って二人同時に走り出す。

「貴様らっ!!」

だが、すぐに角から男が何人も飛び出してきた。当然全員銃を持ってる、俺は内心舌打ちしたがある事に気付いてを押し倒した。

「ちょっ・・・何!?」

「いいから伏せろ!!」

抗議の声を上げるに覆い被さるようにして言った瞬間、背後の部屋から爆炎があがった。

「「「「うわぁぁっ!!!」」」」

俺たちの上を熱風と衝撃が走る。肌がちりついたが、まともに吹っ飛ばされた男共よりマシだ。


数秒の間、衝撃が続いたがやがてそれが収まると、俺は体を起こす。

「なるほど、頭いいじゃない」

顔の埃を払いながらは笑った。

「お前には負けるよ。どうやって開けたんだ?」

「これよ」

俺が言うと、は手を差し出した。そこには黒いヘアピンが一本握られてる。

「・・・マジで」

こんなもんであの頑丈な鍵をこじあけったて言うのか。俺があっけにとられてるとは口端を吊り上げて立ち上がった。

「ピッキングなんて朝飯前よ」

「・・・それ、あんま褒められねーぞ」

一体どこでそんなこと覚えたんだか。

「そうね」

けど、さらりと返した彼女に俺は苦笑して立ち上がった。

「んじゃ、ま、反撃開始と行きますか」











その後の俺たちはとにかく忙しかった。

何せさっきの爆発で俺達が逃げ出した事が知れ渡っちまったらしく、行く先々から銃を持った敵が出てくる。

「キリが無いわね」

今も角で、廊下の向こう側に居る奴らと撃ち合いをしてる最中だ。は弾切れになった銃を床に放り投げる。さっきから銃撃戦が続いてるせいで、俺たちは何度も銃を取り替えてた。もちろん、倒した奴らから奪う形でだが。

「ぐあっ!!」

俺が撃った弾が当たって男の一人が倒れる。だがそれと同時に俺の銃も弾切れになった。

「げっ・・・!」

さすがにこれはヤバイ。廊下の向こうから銃を乱射した男が走ってきた刹那、

「がっ!!」

その喉元にナイフが突き刺さって倒れた。その鮮やかさに俺は口笛を吹いた。

「相変わらずいい腕だな」

「ありがと」

はにっと笑って見せた。彼女は銃の扱いも上手いがどっちかっていうとナイフの方が得意らしい。そのコントロールの良さにはいつも驚かせられる。

「とりあえず、これでしばらく弾切れの心配は無いわね」

俺とは倒れた男からそれぞれ銃を取ってまた走り出した。









「っとなんとかまだ残ってたみたいだな」

部屋の前に居た数人を一掃した後、部屋に入った俺たちの前にはかろうじて後数袋の麻薬が残されていた。

「一つでいいか?」

「いえ、念のために二つ持って」

「了解」

が入り口のところで見張ってる間に、俺は言われたとおり二袋を肩に担ぐ。確かにこの後また走る事を考えたらこの量が妥当かもしれない。

「いいぜ」

「了解、出るわよ」

が俺を一瞥すると、俺たちは部屋から飛び出した。




「・・・誰も来ねぇな」

走りながら俺は呟いた。ここに来るまでの間に粗方倒したんだろうか、追手らしき姿が現われない。

「油断しない方が良いわ」

「ああ」

待ち伏せってことも有り得る。

「そうだな・・・・・!」

言いながら俺が後ろを振り向くと、向こう側の角から何人もの影が見えた。

!」

「わかってる!!」

お互い言うと同時に床を蹴って反対方向へ飛んだ。上手い具合にT字路に差し掛かっていた俺たちは、それぞれ脇の通路に飛び込んだ。

直後、今居たあたりの壁に穴があく。

「っつ!!」

!?」

小さな悲鳴に目をやれば、の腿の辺りから血が流れ出していた。俺が思わず飛び出そうとすると、すかさず銃弾が飛んでくる。

「っく!!」

俺は急いで首を引っ込めた。その隙にが壁越しに何発か撃ちこむ。

「まずったわね、跳弾に当たったみたい」

「立てるか?」

話しながら俺も数発撃つ。狙いが甘いから当たりはしないが、牽制程度の効果はある。

「っ・・・ちょっと無理みたいね。ジャン、それもって先に行って」

「馬鹿、んなことできるかよ!!」

が言ってるのは要は彼女を置いて俺だけ逃げろって事だ。冗談じゃない、こんな状況でそんなことしたら、間違いなく彼女を見殺しにする事になる。

「いいから行きなさいって!!歩けない人間が一緒に居たら足手まといになるだけよ!!」

が彼女にしては珍しく、甲高い声で叫んだ。

「っくそ!!」

俺は舌打ちして残っていた弾を一気に全部撃ちこんだ。

「ぎゃっ!!」

「がぁっ!!」

乱射に近いそれに運悪く当たった二人が倒れたと同時に一瞬銃撃がやむ。そして俺は迷わず床を蹴った。

「っジャン!?」

が目を見開いた。まあしかたないか、さすがに俺が廊下を横切って彼女の方まで来るとは思わなかったんだろう。

「何やってんのよ!!出口は・・・・」

「いいから黙ってろって!!」

「ちょっと馬鹿!!何するつもり!?」

俺はわめきたてるに構わず、袋とは反対側の肩に彼女の体を担ぎ上げた。

「悪いけど、後ろは頼んだぜ?」

「降ろしなさいよ!!この馬鹿っ!!何考えてんのよ!?」

「あーもうっ!!暴れんなってこのじゃじゃ馬!!」



足を怪我してるくせにどこにそんな元気があるのか、じたばたもがく彼女を押さえつけて、俺は前に向かって走り出した。さすがに袋とを担いでるだけあって、さほどスピードは出ない。

「こんなんじゃすぐに追いつかれるわよ!!」

「だから頼むって言ったろ?・・・って、ほら言ってる傍から来たぜ!!」

「っ!!」

肩越しに見えた数人の男に俺は急いで次の角に飛び込んだ。かろうじて当たらなかった事に感謝して、俺はさらに先を急ぐ。

「・・ジャン、その一袋、私の合図で後ろに向かって投げて」

「これか?」

が言ったのは確かめずとも麻薬の入った袋だ。

「そうよ。それと同時に出来るだけ息止めて」

「!・・・了解!」

その一言で彼女が何をしようとしているのか分かった。

「今よ!」

「おぅっ!!」

が叫んだのは角を曲がった追手の姿が見えた時だった。俺が投げた袋を空中で彼女が撃った弾が撃ちぬく。

飛散した麻薬で奴らがむせてる間に、俺は出せる限り最高の速度でその場から走った。











「・・・これってもしかして絶体絶命の大ピンチってやつか?」

「だから私を置いていけって言ったじゃない」

が呆れたように息をついたのを見て、俺は思わず笑みを漏らした。

あの後俺たちは、いくつか角を曲がって、今居る部屋に飛び込んだ。実のところ、俺が走ってきたのは出口とは全く逆方向で、何時の間にか行き止まりまで来てしまい、仕方なく隠れる事になった。

「ま、これで大佐達が来るまでに見つかればそれまでね」

はさして興味もなさそうに自分の着ているワイシャツの袖を破いて、腿の傷口を縛った。

「・・・痛むか?」

「少しね」

は笑って見せたが、巻いたばかりの白い布が見る見るうちに赤く染まった。致命傷になるような位置じゃないが、これ以上長時間出血すれば命に関わる。俺はそれを考えて息を呑んだ。

「大丈夫よ、そんな顔しないで」

・・・」

「ジャンらしくないわよ。ほら、それより、どうせ待ってるだけなら、1ゲーム付き合ってよ」

彼女は苦笑して、胸ポケットからトランプの箱を取り出した。

「・・・・いいぜ」

俺は少し悩んだが結局頷いた。まあ、今更何したって悪あがきでしかないんだし、そう言うのも悪くない。






「・・・・・・」

俺は自分の手持ちのカードを見て思わず声を上げそうになった。今までとポーカーをした事は何度もあるが、はっきり言ってここまで良いカードがそろった事はない。これはもしかして、初めて彼女に勝てるチャンスかもしれない。そう思ったら、急にあることを考え付いた。

「・・・なあ、

「何?」

俺は文字通りポーカーフェイスでカードを見つめるに声をかけた。

「この勝負で、俺が勝ったら頼みがあるんだけどさ」

「頼み?」

は不思議そうに顔を上げた。

「俺が勝ったらさ、付き合わないか?俺たち」

「・・・・え?」

彼女は目を丸くした。まあ、唐突に言ったわけだからあたりまえかもしれないが。

「お前は気付いてなかったんだろうけど、俺はずっとお前に惚れてたんだぜ?」

「・・・ジャン」

俺自身、何で急にこんな事を言い出したのかはよく分からなかった。ただ単に命の危機に陥ってるから無意識にあせってるだけかもしれない。

「駄目か?」

俺は柄にもなく真剣にを見つめた。すると彼女は小さく笑って、またカードに目を落とす。

「・・・生きて帰れたらね」

それはなんとも彼女らしい返事だった。



「で、そっちはもういい?」

「ああ」

の声で俺は顔をあげた。

「っと、待った。俺が先に出してもいいか?」

「?別に構わないけど・・・」

お互いあとはもうカードを見せ合うだけだが、俺はあえて先に見せる事にした。今回ばかりは負ける気がしなかったからだ。俺がカードを表に返して並べると、が目を見開く。

ロイヤルストレートフラッシュだ」

そう言って、俺は口の端を吊り上げた。彼女の様子に俺は勝利を確信する。

「へぇ・・・やるわね」

は感心したように俺を見た。けど、俺は笑うのをやめて真っ直ぐに彼女を見た。

「約束だぜ、。帰ったら・・・・」

俺はすっとの頬に触れた。すると彼女は驚いたように目を瞬かせる。

「ジャン・・・・私は・・・・・」





「何をしてるんだ、君達は」


その時突然ドアが開いて、そんな声が振ってきた。

「「っ大佐!?」」

お約束過ぎるタイミングで現われた大佐に、俺とは驚いて同時に声を上げる。大佐は憮然とした表情で俺たちを見下ろした。

「・・・いくら仕事が終わったからとは言え、敵地でラブシーンとはいいご身分だなハボック」

「いえ、それは誤解です大佐。そのような事は一切ありません」

!?」

俺は一瞬耳を疑った。

「ちょっと待て、さっき俺が勝ったらって・・・・」

「残念だけど」

俺が慌てると、はにっこりと笑って俺の前に彼女のカードを差し出した。


「ハートのロイヤル程度じゃ私は落とせないわよ、ジャン?」


「げっ・・・す・・・スペードのロイヤル!?」

そこにあったのは、ポーカーに置いて最強とされるスペードのロイヤルストレートフラッシュだった。俺は一瞬で地に叩き落された気がした。


ああ、人生、所詮こんなもんだよな。









その後、俺たちが確保していた一袋が取引の証拠となり、二つのテログループの全員が拘束された。また、アルバネーゼに関わっていた他のグループやマフィアなんかにも近々手入れが入るらしい。

事件は無事解決し、当初の予定よりも大幅にでかい功績を上げた大佐は、ますますその株を上げることになった。


ちなみに俺はというと、特にこれと言った変化はない生活を送ってる。




結局のところ俺が本当の意味でに勝てる日は当分先らしい。









THE END






あとがきという名の言い訳

結局報われないハボック(笑)

ラブ甘エンドも考えてたんですが、なんとなくハボックにはこう言うオチのが合ってる気がして結局こうなりました(愛故に・笑)

副題が「Royal straight」なのは最後のヒロインとハボックのやり取りが書きたいがためです。でも、なんとなく気に入ってしまったのでこの話、シリーズ化するかもしれません。

とりあえず、連載以外の軍部より短編では主に今回のヒロインが活躍するかと思われます。