疑惑の錬金術師 第4話『理由』より
は、もう一度敬礼するとくるりと踵を返して扉に向かう。彼女が扉を開いた所でロイは思い出したように声をかけた。
「少佐」
「はい?」
は扉に手をかけたまま振向いた。
「君のその胸は全て自前かね?」
(突然何を言い出すんだこの人は・・・?)
蚊帳の外になっていたハボックはそう思いながらもとロイを交互に見比べた。
「・・・・ずいぶんとまた・・・いきなりな質問ですね?」
突拍子もないロイの問いには苦笑を返す。
「”年齢・体重・スリーサイズは女性に聞いてはいけない”・・・世の男性の基本理論ですね」
はいつものように笑顔でそう答えるが、心なしか話をそらそうとしているのが見て取れる。
「”そんな年齢でその大きさなんて、何かよっぽどの仕掛けがあるのか”と鋼のが不思議がっていたが、私も同感でね」
ロイは一種この口頭戦を楽しんでいるかのようにその漆黒の瞳を細めると、を真っ直ぐに見据える。色の違う二対の瞳が真っ向から交錯する。そこで初めて、の表情から笑みが完全に消えた。
扉を一度離して体の向きを変えた彼女の表情は一切の感情を読み取らせない、無表情だった。どこか氷の彫像のような怜悧さを含んだその顔は、普段の幼さを残すとは別人のごとく大人びて美しい。
「女の子には秘密がいっぱいあるんです」
ただ一言、そう述べた。
笑みが消えたのはロイも同じで睨むわけでもなく鋭い視線での瞳を見据えている。
若くして大佐まで昇りつめたロイの視線の鋭さは、時として大の男でも怯ますほどだが、は全く臆することなく、それに対峙している。
まさに一触即発の”冷戦”といった状況に、関係のないハボックまでもが冷や汗を流した。
「・・・・・と、今は言っておきます」
その一触即発の沈黙を破ったのは、やはり最後に言葉を発したのほうで。そう言った彼女は先ほどまでの怜悧な無表情ではなく、いつものように常に微笑をたたえる童顔の少佐に戻っていた。
「・・・そうか」
その豹変振りロイもまたにフッと表情を緩める。
「呼び止めて悪かったな。暗くならないうちに迎えにいってやってくれ」
「はい、では今度こそ失礼いたします。マスタング大佐」
そう極上の笑顔で言い残して、は扉の向こうに消えていった。パタンという扉の閉まる音がようやくはりつめていた室内の空気に終りを告げる。
「・・・どうした、ハボック?」
未だが出て行った扉を呆然と眺めているハボックに、何故か上機嫌なロイが視線を向ける。
「・・・大佐」
「なんだ」
「・・・少佐のは間違いなく本物っすよ。俺のボインセンサーが反応してるんで間違いないっす」
司令室でそんな会話がなされている頃、当の本人は辞表ってどこに出すんだっけ?と考えていたなど二人は知る由もない。
END